第168話 軽蔑
資料室に行った後、応接室で仕事をしていたんだけど、ユウゴは頻繁に美香を呼んでしまい、何か起きるんじゃないかと気が気じゃなかった。
けど、美香は涼しい顔で応接室に戻り、作業を再開するばかり。
向こうで何が起きてるかも、何の話をしているかも聞けないまま、ただただ作業を続けていた。
1日の作業を終え、美香と話しながら資料室に行こうとすると、雪絵が俺の前に立ちふさがり「二股野郎」とだけ。
「期間がかぶってないから二股じゃない」って言い切ったんだけど、雪絵は全く信じようとはせず「じゃあなんで昼間に会おうとしなかったのよ!」と怒鳴りつけてきた。
なんて言ったら良いかわからず、言葉に迷っていると、ユウゴが俺の腕をつかんで袖を捲ったと思ったら、雪絵の腕に俺の手を押さえつける。
その瞬間、右腕全体に鳥肌が立ち、手が小刻みに震え始め、吐き気を覚えるほど。
ユウゴは何も言わず、その手を美香の腕に当てると、一気に鳥肌が引き、手の震えも止まっていた。
美香は眉間に皺を寄せながら俺を見て「どういう事?」と聞いてくる。
するとユウゴが「女性恐怖症の一種じゃないかと思うんだよね。 女が近づくとこうなる。 大高もあゆみも、みんなこうなるんだけど、なぜか美香だけは大丈夫なんだわ」と言い切っていた。
美香は「嘘… 本当に?」と言いながら俺の手を掴み、強引に雪絵に触れさせる。
けど、美香が俺の手を抑えているせいか、鳥肌はほんの少し起きただけで、よく見ないとわからない程度だった。
ユウゴがそれを見て「やっぱ美香が触ってると起きないみたいだな」と言い、俺の腕を掴んで雪絵の腕を触らせる。
するとまたしても一気に鳥肌が立って、吐き気が強く出てしまい、慌てて美香に抱き着いた。
「大丈夫?」
心配そうに声をかけてくる美香に、「ちょっとやばいかも…」と声をかけると、美香は不安そうに「上行く?」と聞いてきた。
「いや、もう少しこうしてれば大丈夫」
そう言いながら大きく息を吐いていると、「座ったほうがいいよ」と声をかけてくれた。
椅子に座り、大きくため息をつくと、美香は俺の手を握り「いつから?」と聞いてきた。
「9歳かな? 母親の葬儀の後から」
「あ、上原さんが言ってたかも… 小さいとき、出涸らしって言われてたって…」
「そそ。 その辺りから全然ダメ。 でも、なぜか美香だけは大丈夫。 高校の時からさ」
ため息交じりにそういうと、美香は「ちょっと嬉しい」と言い、優しく微笑んできた。
「え? 気持ち悪いって思わない?」
「全然。 私以外触れないんでしょ? 最高の浮気対策になるじゃん。 それに、私だけ大丈夫って、そんなにラブなんだなってね」
「当たり前じゃん。 俺、昔から美香以外見えてないし」
はっきりとそう言い切ると、ユウゴが「なぁ、そこのバカップル、そう言うことは帰ってからやれな?」と、呆れたように言ってきた。
「美香、早く着替えて帰ろうぜ」と言うと、美香は「ん」とだけ言い、休憩室に駆け込んでいたんだけど、雪絵は軽蔑するような目で俺を見てくるばかり。
『普通はそういう目で見るよな… だから何も言いたくなかったんだよ…』
そう思いながら美香を待っていると、美香は慌てたように休憩室から飛び出し、笑顔で「帰ろ」と言ってきた。
その笑顔にホッとしつつもゆっくりと立ち上がると、美香は「夜、何食べたい?」と切り出し、二人で話しながら事務所を後にしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます