第167話 あだ名
少し眠った後、携帯のアラームが鳴り、美香は慌ただしく動き始めていた。
そのまま眠っていると、美香は「起きろ~」と言いながら体をゆすった後、優しく口づけてきた。
「あれ? どっか行く?」
「仕事ですよ? 社長。 起きて下さい」
「え? マジで?」
「マジ。 早く起きてね」
渋々体を起こし、リビングに向かおうとしている後姿を眺めた後、ベッドから降りて支度を始める。
美香の作った朝食を、二人で食べていたんだけど、美香は仕事の準備をしようとしなかった。
「あれ? 行かねぇの?」
「来月からって言ったじゃん。 それまで有給消化」
「来月ってあと1週間近くあるじゃん。 汚くね?」
「汚くない。 もしピンチだったら連絡して」
美香はそう言いながら、新しい連絡先を紙に書き、手渡してきた。
すぐさま「ピンチ。 マジヤバイ。 help」と言うと、美香は「えー… 急がなきゃダメじゃん」と言いながら、準備を始めていた。
美香よりも早く準備を終え、先に事務所へ行くと、ユウゴが朝の準備をし、あゆみが掃除をしていた。
挨拶もそこそこに、ユウゴの準備を手伝っていると、美香が出勤してきたんだけど、美香はユウゴを見るなり「ゆってぃ、おはよ」と言いながら休憩室へ向かい、ユウゴは「おう」とだけ。
「ゆってぃ?」
「高校時代のあだ名。 美香、俺のこと『ゆってぃ』って呼んでたんだよ。 知らなかったろ? 大地が熱出したとき、美香に言われて思い出した」
ユウゴの言葉を聞き、妙な敗北感に襲われていると、美香が朝の準備を手伝ってくれた。
掃除を終えたあゆみと4人で準備をしていると、ケイスケが出勤してくるなり、美香は「ケロポンおはよ」と言い、ケイスケは「おはよ~」とだけ。
「ケロポン?」
「うん。 あだ名だよ。 あ、あゆちゃん、来月から週5出勤できる?」
美香はそう言いながらファイルをもってあゆみに近づき、仕事の話を始めていた。
「なんか孤独感ハンパねぇんだけど…」
「キスマークべったりつけて何言ってんの?」
慌てて首筋を手で隠すと、ユウゴは「やっぱそうなんだ。 ほぉ~」と感心したような声を上げた。
『んのやろ…』
そう思っていると、雪絵が出勤してきたんだけど、雪絵はまっすぐに美香の元へ行き、美香に向かって「大地の元カノの佐野雪絵です」と、美香を見下すような目で見ながら言い切っていた。
美香は怯むことなく「大地君の今カノの園田美香です。 ちなみに昨日から、同棲中です。 よろしくお願いします」と言い切る。
「…同棲? 嘘ついてるでしょ?」
「いいえ。 一緒に住んでますよ。 大地君のマンションで」
「…マンション? …大地ってドMでしょ?」
「いいえ。 ドSですよ。 はっきりダメだって言うと止めてくれるけど、言わないと止まんないです。 今朝も危なかったですよ」
「…アル中かってくらい、常に酔っぱらってるよね」
「シラフの印象しかありませんよ? いつも運転してくれてますし、もしかして、酔わないと会えない関係だったんですか?」
『どっちも怖ぇ…』
そう思いながら美香に駆け寄ると、雪絵は苛立ったように休憩室に向かっていた。
「美香? あの、これには深い事情が…」と言いかけると、美香は「昨日の会話聞いてたから、言い訳なんてしないでいいよ? 二股かけれるほど賢くないのも知ってるしね」と、いたずらっ子のような笑顔を見せてきた。
「と、とりあえず応接室行こうか」
そう言いながら美香の腰に手を当て、美香と応接室に閉じこもっていた。
そのまま始業時間を迎え、資料室に行こうとすると、美香が雪絵に話しかけていたんだけど、雪絵は聞こえないふりをするばかり。
何度呼んでも返事すらしないことに、美香は苛立ったように「元カノさん! さっきから呼んでるんですけど!!」と、かなりきつい口調で、あだ名のように呼んでいた。
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