第154話 頼り

山根たちが社長室から去った後、兄貴は大きくため息をついて自分のデスクに。


『美香が辞めた? 嘘だろ? 担当だってあるし、アニメの企画だってあるし… やり直す返事すらもらってねぇぞ…』


そう考えながら美香の退職願を握りしめていると、美香の言葉が頭を過る。


【光輝社長から言われたんです。 『今後、迷惑をかけるようであれば、それなりの対応をさせてもらう』って。 白百合の件がきっかけで、目、つけられちゃいました】


【光輝社長からしたら、そんなの関係ないんですよ。 原因になってるのは私だから】


【光輝社長、何するかわかんないじゃないですか… 私が迷惑って思ってなくても、光輝社長からしたら、迷惑って思われるかもしれないし… それなりの対応っていうのも、どういうことかわかんないし…】



「…仕組んだのか? 美香が退社するように仕組んだのか?」


小さくつぶやくように言うと、兄貴はため息をつき「仕事に戻れ」とだけ。


思わず立ち上がり、退職願を握りしめたまま、兄貴に怒鳴りつけた。


「てめぇが仕組んだんだろ!? 美香を退社に追い込んだんだろ!?」


「戻れ」


「ふざけんな! なんでも言いなりになるって思ってんじゃねぇよ!!」


「お前が頼りないからだろ?」


「どこが頼りねぇんだよ!? あの企画だって、こっちで持ってきた物だろ!? 自分の嫁ですら管理できないくせに、勝手なことばっか言ってんじゃねぇよ!!」


「嫁? 何かあったのか?」


シュウジの家の周りをウロウロしていることを怒鳴るように告げると、兄貴は大きくため息をついた。


「しかも、俺に責任とれて怒鳴ってくるし… あんなの聞かれたら、誰だって俺の子だって勘違いすんだろ?」


「…悪かった。 その件はこっちで早急に対処する」


「美香は? 美香の件はどうすんだよ? 早急に… 今すぐ返せよ」


「検討しておく。 とにかく戻れ」


「ふざけんな!! 今この場に呼び出して、今すぐ返せ!!」


「検討するって言ってるだろ? 頭を冷やせ」


「ふざけんな!!」


怒鳴りつけると同時に、ドアが開き、佐山さんが社長室に飛び込んできた。


「大地社長、落ち着いてください」


佐山さんはそう言いながら、俺の体を押さえつけようとしてくる。


兄貴はそれを見て「追い出してください」とだけ。


その言葉にブチっと来てしまい、佐山さんを振り払おうとすると、石崎さんと上原さんが社長室に飛び込み、3人に追い出されてしまった。


「だいちゃん、落ち着いて」


上原さんの言葉に何も言わず、苛立ったまま社長室のドアを蹴り飛ばした。


そのままエレベーターの方へ向かうと、上原さんはピッタリと横に立ち、「1か月以上前から、共同経営持ち掛けられてたの。 大高さん、内部に詳しいでしょ? 警備の薄い時間帯とか、裏口のキーレックスの番号も知ってるし… 光ちゃん、百合ちゃんとの離婚が成立しそうになったって思ったら、今度は大高さんにしつこくされてたみたいなの。 美香さんをよこせって…」と、小声で話し始めていた。


「どいつもこいつも… 美香は俺のもんだっつーの」


「え!? そうなの!? だってだいちゃん、触れないんじゃ…」


「あいつだけは例外」


そう言った後、エレベーターを降り、事務所に戻っていた。


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