第147話 敗北感
間違えて2本もビールを飲んだ後、思わず美香と目を合わせた後、お互い噴き出してしまった。
美香は「あーあ。 お泊り決定だね」とシュウジに言うと、シュウジは歓喜の声を上げていた。
「ごめんな。 俺、ビールに負けてたわ」と言うと、美香とシュウジは「負けたって~」と言いながら笑い始めていた。
焼きそばを食べ終わった後、3人で屋台を巡っていると、シュウジがスーパーボールすくいの前で足を止めた。
シュウジが水槽の前に座り、動くスーパーボールを選んでいると、美香が水槽の角を指さし「あれ、可哀そうですね」と切り出してきた。
小さなあひるの形をしたゴム人形は、首から先が水槽の角に埋もれていて、水流で流れてきたスーパーボールが、ガスガスとあひるの胴体にぶつかっている。
店番をしているおじさんに向かい「おっちゃん、こいつ可哀想だから助けていい?」と聞くと、おじさんは「おお! だいちゃん来てたんか! 持ってっていいぞ」と言いながら、小さな金魚袋を手渡してくる。
救出したあひるを袋の中に入れ、「美香が気付かなかったら、あのまま潰されてたかもな」と言いながら、美香に手渡すと、美香は嬉しそうな表情をしながらあひるを眺めていた。
シュウジは一つも掬うことができず、かなり不貞腐れていたんだけど、店番のおじさんに「好きなの3つ持って行っていいよ」と言われ、ラメの入ったスーパーボールと、小さなウサギのゴム人形を2つ選び、ウサギの人形を1つ美香に手渡していた。
「え? くれるの?」
「うん! おそろいだよ!」
美香は「ありがと~」と言いながらシュウジを強く抱きしめ、シュウジは「くるしいおぉ」と、嬉しそうな声を上げる。
その後、屋台巡りをしていたんだけど、シュウジが「ねえちゃん、あそぼ!」と言い、美香は空きスペースに移動した後、シュウジと走り回っていた。
シュウジは次々に、ブランコや鉄棒、登り棒にまで目を向け、美香はそれを追いかけて遊んでいる。
『そういや前に、保育士になりたかったって言ってたっけ。 もし、保育士になってたら、良い先生になってそうだよな…』
そんなことを思いながらベンチに座り、走り回る二人を眺めていた。
薄暗い公園の中で、走り回って遊んでいる二人を眺めていると、祭り終了の合図が聞こえてくる。
「シュウジ、帰るぞ」と言ったんだけど、シュウジは「ヤダ!もっと遊ぶ!」と、今にも泣きだしそうな顔で言ってきた。
「シュウジ、にいちゃんとねえちゃん、今日お泊りするぞ?」と言うと、シュウジは「あれ? そうだっけ? はやくかえろ!!」と言い、美香の手を握って引っ張るようにマンションへ向かっていた。
美香の隣を並んで歩き「なんか美香に敗けた感がすごいんだけど」と笑いながら言うと、美香は「勝ちですね」と言いながら笑い返す。
「初めて会った時から負けっぱなしだけどな」と呟くように言うと、美香は「その話、今度詳しく聞かせてくださいね」と笑いかけてきた。
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