第140話 救い

先生と監督の提案を引き受けた後、先生が「OPなんだけど、前に4人で作ったでしょ? あれの曲とキャラを差し替えるだけで、動きはそのままでって思ってるんだけどどうかな? 俺、あのOP気に入っちゃって、何度も見てるんだよね」と、笑っていた。


「美香、どうだろ?出来そうか?」と聞くと、美香は「設定図と音源があればいけます」と返答。


すると、監督が「そう言われると思って勇樹に頼んできた」と言い、美香にUSBを手渡していた。


「流石。 なんでもお見通しですね。これは個人的なお手伝いとして引き受けますから、料金に入れないでくださいね」


「わかってるよ」と笑顔で答えると、先生は嬉しそうに何度もお礼を言っていた。


その後も打ち合わせを続け、監督と先生を見送った後、みんなと少し話してから兄貴に連絡をすると、兄貴は二つ返事で了承をし、「早速HP作り始めるよう手配する。 担当は園田さんにしたほうが良さそうだな。 この状況下でよくやったな」と、生まれて初めて兄貴から褒められていた。



その日以降、ケイスケとユウゴでモーションコミックを作る作業が始まり、圧力のかかっていない作業を俺と美香で熟す日々。


美香は通常業務のほかに、配信担当になったせいで、兄貴とマメに連絡を取り、配信の件を着実に進めていた。


それと同時に、大高は病欠が相次ぎ、『そのままフェードアウトしそうだな』と思っていた。


定時後は、4人でOPの差し替え作業をし続け、1週間ほど経つと、OPの差し替え作業が終わったんだけど、小さなこだわりを見せるケイスケのモーションコミック作成はなかなか終わらず、先生から原稿が来るばかり。


痺れを切らせた、ユウゴが「こだわりすぎて待たせてたら元も子もねぇだろ?」と言い、ケイスケと軽く口論になっていたんだけど、通常業務がかなり減ってきたせいで、美香もケイスケのヘルプに回ることになっていた。


1話分の作成が終わると同時に、OPと1話を先生に送ったんだけど、美香と話し合った結果、先生は翌日、OPだけをSNSにアップロードしていた。


OPの最後には【special Thanks】の下に監督の名前と、俺たち一人一人の名前。


一人一人の名前と言っても、フルネームではなく『Day,Yu,Key,Mik』と言った暗号のようにも取れる書き方だった。


わかる人だけにわかるようにしたんだろうけど、SNSを見た一部のファンからは『1部OPメンバー集結じゃね?』と言う意見や、1部OPのクレジットを上げる人もいて、アップロードから間もなく、ものすごいバズり方を見せ、ユウゴはモニターに向かい「違います~~」と、嬉しそうに言っていた。


一方で加速したのが白鳳とホワイトリリィへの批判。


まだまだ連載が続くと思っていた原作が、突然終わってしまったから、ファンからの怒りを買うのも当然と言えば当然だし、あのアニメの酷さを見れば誰もが納得するんだけど、あまりにも酷い叩かれっぷりに、『コメント欄、封鎖したほうがいいんじゃないか?』という考えが思い浮かぶほどだった。



先生のSNSがバズった翌日、朝一に会社へ電話があり、対応したんだけど、相手の声を聴いた途端、鳥肌が沸々と立ち始める始末。


「私、株式会社ホワイトリリィの山根と申しますが、早急にお話ししたいことがございますので、本日、そちらに伺わせていただきます」


「申し訳ございません。 本日はすでに予定が入っておりますので、あいにく時間がとれません」


山根は「少しでいいのよ?」と言ってきたけど、何度も「申し訳ございません」と、断りの言葉を並べ続けていた。


やっとの思いで電話を切った後、美香が「配信の件ですか?」と、不安そうに聞いてきた。


「いや、ホワイトリリィの山根。 早急に話したいことがあるってさ。 断ったけどな」


それを聞いたユウゴが「バズってるのに肖ろうとしてんじゃね? 白鳳批判もすごいけど、白百合はもっとすげーし、出版社からテレビ局から、クレーム量が半端じゃないらしいな。 よかったなぁ。 俺らの会社名出さなくて」と、ホッとしたような表情を浮かべていた。


その日の午後、会社のインターホンが鳴り、あゆみが対応していたんだけど、ドアが開くと同時にあゆみは押し退けられ、怒りに満ちた表情の山根が美香に向かって歩いてきた。


美香の前に立ち「お断りしたはずですが」と言ったんだけど、山根は俺のことはお構いなしに、美香に向かって「帰るわよ」とだけ。


「美香のいる場所はここです」と言ったんだけど、山根はそんなことをお構いなしに「早く準備なさい。 白鳳に帰るわよ」としか言わない。


「いきなり来て失礼すぎませんか?」と聞いたんだけど、山根は美香に向かって「もたもたしないで帰るわよ」と吐き捨てるように言い放った。


「この事、親会社の白鳳はご存じなのですか? それとも、ホワイトリリィが勝手に行動しているだけですか?」


「知ってるに決まってるでしょ!!」


「そうですか。 では、無許可で来社し、従業員を脅すように連れて行こうとする言動は、白鳳の指示なのか、そして御社はそのような教育をされているのか、その間、作業が滞ってしまった責任を取っていただけるのか、防犯カメラの映像をお見せして、白鳳社長直々に聞いてみます。 良いですね?」


そうハッキリと言いきると、山根は俺を睨みつけた後、踵を返し、いらだった様子で事務所を後にしていたんだけど、美香は申し訳なさそうに「すいません。 助けていただいてありがとうございます」と。


「従業員を守るのは社長の役目だろ? 気にするな」と言うと、美香は小声で「はい」と言うだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る