第139話 圧力

結局、美香とはそれ以上のことができず、不完全燃焼のまま帰宅した週明け。


朝の支度を終え、休憩室で資料をまとめていると、普段よりも数が少なかった。


ユウゴが出社するなり資料を見て「減ったな。 圧力ってこんな短時間でかけられんの?」と聞いてきた。


「さぁな。 白鳳は白百合を切り捨てるつもりみたいだし、白百合が有り金全部注ぎ込んでるんじゃね? マジで潰れるぞ」


「だよな。 アニメも打ち切りになってるし…」


ユウゴがそう言いかけると、ケイスケが休憩室に飛び込み「見てよこれ!」と言いながら少年誌を開いて見せてくる。


そこには放送休止になったばかりの漫画が描いてあったんだけど、なんともあっけない終わり方をしていた。


「あんなアニメ作るから、先生描く気無くなったんだよ! 放送だって中止でしょ!? 絶対に白鳳のせいだよ!」と、興奮気味で話してくる。


「終わったな」


ため息交じりに言い切ると、ユウゴは「だな」とだけ。


その後、美香とあゆみが出勤し、普段よりも余裕のある1日が始まったんだけど、それと同時に電話が鳴り、俺が対応していた。


電話の相手は監督で「仕事のことで相談があるんだけど、明日いいかな? 時間は夕方近くになると思うんだよね。 もしかしたら定時過ぎるかも」とのこと。


「かしこまりました。 お待ちしています」と言い、電話を切った後、「ユウゴ、明日来客あるからスーツで頼む」と言うと、ユウゴは「うぃ~」と気のない返事をしていた。


その後も作業を続けていたんだけど、契約中断の電話が多く、少しだけ危機感を持つように。


昼過ぎになると、浩平が当たり前のように事務所にやってきた。


「もう関係者じゃないんだから、アポなしで来るな」と注意したんだけど、浩平は「真由子ちゃんに伝えた」と反論するばかり。


結局、用件を話させないまま、追い返していたんだけど、『やっと大高を切れる…』と思い、大きく息を吐いていた。



翌日も、浩平は午前中に来て、用件を言わせないまま追い返していた。



その日の午後、監督と打ち合わせの時間になったんだけど、監督が来る気配はなく、予定時間を少し過ぎた頃に電話が鳴り、監督は「ごめん。 急用が入って抜け出せないんだ。 どうしても今日中に話をまとめたいから、定時過ぎると思う。 本当にごめんね」と謝罪の言葉を繰り返すばかり。


電話を切った後、ユウゴに「急用があって抜け出せないらしいけど、どうしても今日中に話をまとめたいから、定時後来るって」と言い、ユウゴはネクタイを外しながら「うぃ~」と気のない返事をしていた。


定時後、少しだけ残業をしていると、事務所のインターホンが鳴り、監督と先生が現れた。


挨拶をした後、監督の提案で全員を応接室に呼んだんだけど、そこで先生が話したのが「出版社と契約満了になった」との事。


連載終了と同時に、契約も満了になったようで「2部の制作を完全に白鳳任せにするって話が出た時から、連載終了の話をしてきたんだ。一部の人達は文句言ってたけど、知ってる人は仕方ないって感じだったよ。 契約も満了になったし、今はフリーなんだ」と先生は言い、鞄から手書きの原稿を差し出してきた。


「今、この漫画を描いてるんだよね。 ただ、この漫画はどこの出版社からも出さないで、自主出版にしようと思ってるんだ。 これを動画にして、ネット配信しようと思ってるんだけど、その制作をみんなにお願いしたいんだ。 監督が脚本を書いてくれるって言うし、知り合いのバンドがOPテーマ曲作ってくれるって言うし、月1配信でどうだろう? ただ、声優を集めることが出来ないし、予算も出せないから、モーションコミックにしたらどうかなって思ってるんだ。 お願いできるかな?」


『モーションコミックか… 先生なら名前が売れてるし、原作も兄貴のところで限定配信にしたら、収益が見込めるな… 仕事も減ってるし、先生なら白鳳も関係ないだろ』


「わかりました。 お世話になったご恩もありますし、全面的に協力させていただきます。 担当はケイスケでいいですか?」と提案すると、ケイスケは驚きの声を上げていた。


「ケイスケは動画作成初心者です。 そのため、時間がかかると思いますが、新人が担当になるということで、破格で引き受けさせていただきます。 それと、原作は親会社のサイトから限定配信ということにすれば、白鳳も関係なく、更なる収益が見込めます。 これでいかがでしょうか?」


先生と監督は目を輝かせ「是非お願いします!」と二つ返事をし、ケイスケは「全力で頑張ります!!」と気合十分と言った感じだった。


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