第121話 きっかけ

美香と穏やかな朝を過ごした後、みんなはゾロゾロと起床し、監督と美香、美香が『けいちゃん』と呼んでいた女の子と共に作った朝食をとっている最中、ヒデさんがメンバー紹介をし始めていた。


いきなり美香に怒鳴りつけていた男が大介。


美香と仲良く朝食を作っていたのが恵子。


基本無口で、黙々と作業をしているのが勇樹。


『このメンバーとずっと一緒だったんだな…』


そう思いながら自己紹介をしたんだけど、監督は「似たような名前が集まったな」と、少し苦笑いをしていた。


ユウゴは監督の作った朝食が気に入ったようで、尋常ではない量を食べ続けていた。


監督はそれを見て「ケイスケ、そんなに食って大丈夫か?」と聞き、ケイスケは「え? 俺?」と不思議そうに答えていた。


ユウゴは「俺がユウゴだって! つーか、監督マジ料理うまくないっすか? 俺、毎日これでいいっすよ?」と言いながらガツガツと食べ続け、監督は嬉しそうに笑っていた。


掃除した後、ヒデさんに駅まで送ってもらうことになったんだけど、監督はユウゴとケイスケが気に入ったようで「また来週な!」と約束し、ユウゴとケイスケは「わかりました!!」と元気に答えていた。


大介に「資料ってもらえたりする? 仕事が暇な時、3D起こしてくるよ」と言うと、大介は「お! マジか! 社長やるねぇ」と言った後、USBを手渡してきた。


駅までの道中、OPの話をしながら車に揺られている時に、「ヒデさん、来週は俺が車出すから、迎えいらないですよ」と言うと、ヒデさんは「仲間増えたな」と、嬉しそうに笑っていた。



寄り道もせず、真っすぐに自宅に帰った後、携帯を見ると、大高からのメールがビッシリ。


『兄貴からの連絡はないか… 良かった…』


そう思いながらシャワーを浴び、大介から預かった資料を眺めていた。


『アニメ制作現場ってあんな感じなのかな… 白百合のブログとは大違いだけど、飯もうまいし、かなり楽しかったな…』


そう思いながら資料を眺め、ふと『マンションに原作があったよな…』と思い、美香に電話をした。


電話に出た美香に、原作のことを告げ「今から取りに行って良い?」と聞くと、美香は「いいですよ。 ついでにご飯行きません? 作るのめんどくさくなっちゃって…」と笑いながら言ってきた。


すぐに了承をし、マンションの前に行くと、美香はマンションの前で待っていた。


俺の顔を見るなり、美香は笑顔で俺に駆け寄り、それだけで胸が締め付けられてしまう。


話しながら駅に向かって歩き、店に入った後も、話の中心は『遊びのアニメOP』。


美香は思い出したように「そういえば、ケイスケさん、作業してませんでしたね」と切り出してきた。


「ああ、足引っ張ったらいけないって思ってるのかも」


「ヒデさんに教わるっていうのはどうでしょう? 私、前期プロジェクトに参加した時、ケイスケさんよりも未熟だったんですけど、詳しい操作方法とか、効率よく作業する方法とか、全部ヒデさんに教わったんですよ。 CGの作り方とか。 ステップアップするきっかけになるかもしれないですよ」


「なるほど… ヒデさんにお願いしてみるか… ケイスケも出来るようになれば、かなり楽になるし、昔っから原作好きだったから、良いOPになるかもしれないもんな」


その後も話しながら食事をとった後、マンションに行き、美香は原作を紙袋に入れた後「寝不足には気を付けてくださいね」と笑いながら告げてくる。


またしても胸が締め付けられ、美香をそっと抱きしめた後「そんなかわいい事言ってると、本気で口説くぞ」と言うと、美香は俺の背中に手を伸ばし、そっと唇を重ねてきた。


『美香から初めてキスしてきた… これって口説いていいって事だよな…』


抱き合ったまま唇を重ねていると、携帯が鳴り【兄貴】の文字が浮かび上がる。


「ほんと、邪魔しかしない兄貴だな…」


そう呟きながらため息をつき、電話に出ると、容赦なく仕事の話を切り出され、渋々自宅に戻っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る