第122話 お詫び

マンションから原作の漫画を持って事務所に戻った後、自分のデスクにつき、兄貴と電話をしながら作業を続けていた。


兄貴に「休んでないん?」と聞くと、兄貴は「家にいたくない」とだけ。


「え? 追い出さねぇの?」


「行く場所がないんだよ。 今回の一件で両親に勘当されたし、相手は妻子ある身だろ。 貢いだせいで金も残ってないし、俺が出るしかない。 あのマンション、しばらく貸してもらえないか?」


「え? あ、あそこはちょっとさぁ… 彼女が住んでるから…」


「一緒に住んでるのか?」


「ああ… うん… まぁ… つーか大高だよ! あいつ事務所に押しかけて来るから困ってるんだよ! 何とかしてくれよ!」


「お前もやられたか… 近いうちに何とかするしかないけど、どうするかだな…」


兄貴はため息交じりにそう言うと、事務所のインターホンが鳴り響く。


嫌な予感がしつつも、ドアに近づき、ドアアイをのぞき込むと、大高が立っていた。


自分のデスクに戻った後「言ってるそばから来た」とだけ言うと、兄貴は深くため息をつき、大高に応対することはなく、そのまま作業を続けていた。



翌日、朝の準備を済ませた後、休憩室で原作を読んでいると、ユウゴが出社してくるなり、漫画を読み始めていた。


しばらく読み更けていると、美香が出社し、「勉強熱心ですね」と切り出してきた。


するとユウゴが「なぁ、あのOPって全員が作るん?」と切り出した。


「はい。 全員順番でリーダー兼監督になって作り上げて、良いところをつなぎ合わせるんです」


「美香って大介の次だって言ってたよな?」


「そうですよ」


「それさ、俺ら4人の共同制作にしない?」


「共同制作ですか?」


「そそ。 俺らも参加するとなると、全員分作るには、かなりの時間がかかるし、そこまで時間をかけられないだろ? どうだろ?」


「それいいと思います!」


「今度イメージ教えて」


「承知しました!」


美香は元気に返事をした後、カーテンの向こうに消えていった。


『ユウゴが珍しくやる気になってる… カオリさんの説教が効いたか?』


そう思いながら二人の会話を聞いていると、ケイスケが出社し「ああ! 俺の漫画!! 大地が持ってたんか!!」と声を上げた。


「マンションにあった」と言うと、ケイスケは「通りで無いわけだよ…」と、文句を言い始める。


「なぁ、ケイスケ、お前今度行ったとき、ヒデさんに作業教われよ」


「ヒデさんに? なんで?」


美香から聞いたことをそのまま告げると、ケイスケは「え? いいの? 俺も参加できちゃう系?」と言い、目を輝かせていた。


その後、あゆみが出勤し、始業時間を迎え、普段よりも平和な1日を過ごしていた。



定時を迎えると、あゆみは「美香っち、飲みに行こう!」と美香を誘い、美香は「いいよ~」と了承していた。


ユウゴがその話題に乱入すると、従兄妹同士の喧嘩が勃発し、ケイスケと美香が二人を抑えていたんだけど、美香は「じゃあ、みんなで行こっか! 社長、どうです?」と珍しく切り出してきた。


「いいよ。 ちょっと待ってて」と言った後、美香とあゆみ、ユウゴの3人は休憩室に行き、急いで作業を終わらせていたんだけど、一緒に作業をしていたケイスケは、小声で「お詫びのつもりかねぇ」と言いながら笑っていた。


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