第115話 怪しい行動

久しぶりに美香と二人で食事をとった翌週末。


美香は定時前になると、慌ただしく後片付けをはじめ、定時きっかりに更衣室へ。


時々、上の空になることはあるものの、やるべきことは全て終わっているし、ミスも目立たなくなってきたから、何の問題もない。


けど、その日以降、美香は週末になると、定時きっかりに退勤し、慌ただしく事務所を後にしていた。


あゆみが飲みに誘っても「予定がある」と言って帰ってしまい、『怪しい』と思い始めるように。


あゆみは「美香っちの付き合いが悪くなった。 女の子と会ってるらしいけど、毎週末に会うっておかしくない?」と不貞腐れていたけど、定時後のことに関して口出しし、また無視をされるくらいなら、黙っていたほうがいいような気がしていた。



そんなある日の週末。


どんなに「昼休憩行け」と言っても、美香は昼休憩を取らず、そのまま1日を終え、慌ただしく事務所を後にしていた。


『怪しいな』と思いつつも、全ての作業を終えた後、ユウゴが3人分の弁当を買いに行ってくれて、ケイスケと二人で話していた。


話題の中心は『美香の怪しい行動』。


週末になると昼休みを返上して作業をし、定時きっかりに事務所を後にする姿は、誰がどう見ても怪しすぎる。


けど、あゆみが『女の子と会ってる』って言ってたから、男ではないとは思うんだけど、数週間経っても、どこで何をしているのかわからない状態だった。


しばらく話していると、ユウゴが弁当を片手に戻ってくるなり「美香に会った。 失礼な女と居た」と言いながら弁当を渡してきた。


「女? 大磯?」


「いや、知らない感じ悪い女。 いきなり成金のボンボンって言われた」


「かおりさん?」


「いや、『かおりさんが言ってた』って言ってたから多分違う」


「誰だろな…」


どんなに考えても、答えが見つかるわけもなく、ユウゴの買ってきてくれた弁当を食べていた。



その翌週末も、美香は昼休みを返上し、作業を続ける始末。


『休憩もなしに作業して、このままじゃ倒れるぞ』


そう思いながら作業を続けていたんだけど、どんなに聞いても、何も言わないことにだんだんイライラしてしまう。


苛立ちを抑えきれず、定時間際、美香の横にファイルを置いた。


「悪い。 これ急ぎなんだ」


美香はその言葉を聞いた途端「えー…」と、嫌そうな声を上げた。


「嫌か?」


「用事がありまして…」


「毎週何してんの?」


ストレートにそう聞くと、美香は口ごもりながら「プライバシーに関わるので…」と呟くように言ってきた。


これにカチンと来てしまい「ちょっと来い」と言った後、応接室へ向かった。


美香を向かいに座らせてすぐ「最近行動が怪しい。 何してんの?」と聞いても、美香は黙ったまま。


「たまに仕事も上の空になるし、怪しい行動と関係があるのか?」


「すいません… 以後気を付けます…」


「そうじゃなくて」と言いかけた後、ため息をついた。


「仕事に差し支えてないから、俺から何かを言う権利は無いよ? ちゃんとしてるし、作業も早いし、売り上げは伸びてる。 数字だけ見ると文句はない。 だけど、個人的に言うと最近本当におかしいぞ? 今まで真っ先に帰るなんて無かったし、昼休憩も取らないっておかしいだろ? また倒れるぞ?」


「…そうですね」


美香は俯いたまま小声で言うだけ。


大きくため息をついた後、「あのファイル、全部片づけてから帰れ」と切り出すと、美香は「今日はどうしても用事が…」と言いにくそうに言うだけ。


『この期に及んでまだそれを言うか』と思うと、かなりイラっとしてしまい「命令」とだけ言うと、美香は渋々事務所に戻っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る