第108話 うさぎ
緊張感のある1日を過ごし、兄貴は定時1時間前になると「また来るな」と言い事務所を後に。
ユウゴとケイスケだけではなく、美香も緊張していたようで、ホッとしたように大きく息を吐いていた。
大高は兄貴がいなくなった途端、俺の横に立ち「週5でパートナーにしろ」と騒ぎ始め、ヘッドフォンをしながら作業を続けていた。
定時を過ぎると、ユウゴが俺の肩をたたき「コンビニ行ってきていい?」と聞いてきた。
「まだかかるのか?」
「うん。 腹減ったし、あともうちょいだから、何か食いながらやる」
ユウゴはそう言いながら立ち上がり、事務所を後にしていた。
資料室に行き、しばらく調べ物をしていると、事務所のインターホンが鳴っていた。
何も気にせず、事務所に戻ると、ユウゴの兄貴がケイスケと事務所の中に入り「よ!」っと声をかけてきた。
「あれ? どうしたん?」
ユウゴの兄貴は「家の鍵無くしちゃって…」と言いかけた後、美香を見るなり、まっすぐにユウゴのデスクに座っていた。
「ユウゴの兄貴のシンジです! よろしく!」
ユウゴの兄貴はそう言いながら、右手を美香の前に差し出す。
美香は困った様子で、「よろしくお願いします…」とだけ。
慌ててユウゴの兄貴の前に行き、「人見知ってるから、そう言うのは良くないかなぁ?」と言うと、ユウゴの兄貴は「え? そうなの? 怯えちゃってる系? かわいすぎない? 実はうさぎちゃんなの? 名前は? お名前は何て言うの?」と、勢いよく立て続けに聞いていた。
「そ、園田… です…」
「男にお名前を聞かれたら、下のお名前を言わなきゃだめよ?」
「み、美香です…」
「美香? ああ! あゆみの言ってる優しいお姉ちゃんか! このうさぎちゃん、可愛すぎない? 食べていい?」
「ダメに決まってんだろ!?」
思わず怒鳴りつけると、ユウゴの兄貴は「こえぇ社長だなぁ」と言った後、美香に向かって「かわいい」と連呼し、美香は必死に助けを求めるような目で見てきていた。
「シンジ兄、ちょっと近すぎるから」と言いかけると、大高が「美香さんって地味じゃないですかぁ?」と切り出してきた。
それと同時に事務所の扉が開き、コンビニ袋をぶら下げたユウゴが「あれ? 兄貴、何してんの?」と聞き、ユウゴの兄貴は平然と「家の鍵無くしたから、借りに来た」と言っていた。
ユウゴの兄貴は、ユウゴを気に留める様子もなく『かわいい』『うさぎちゃん』って言葉を連呼してたんだけど、大高はそれが気に入らなかったようで「色気0で、幼児体系ってことですよね?」と、にっこり笑いながらユウゴの兄貴に話しかける。
が、ユウゴの兄貴は大高をちらっと見て「俺、人工物には興味ねぇから。 やっぱ天然物だよな!」と言い切った後、美香をマジマジと見て「65のCカップ。 違う?」と聞いていた。
美香は真っ赤な顔をしながら「ち、違います!」と言っていたんだけど、ユウゴの兄貴は「本当に違う? ちょっと触らせてみ?」と言いながら手を伸ばした。
慌ててユウゴの兄貴の手を掴み「美香だけはやめてくれ」と言いながら手に力を籠めると、ユウゴが呆れたように切り出してきた。
「兄貴、ポケットの中身、全部出してみ?」
ユウゴの兄貴は「財布だろ?」と言いながら財布を出す。
「携帯だろ… タバコ… ライター… 鍵… あった! ユウゴお前天才だな! ってことでうさぎちゃん、ライン教えて。 メールでも電話でも住所でもいいよ?」
自由奔放なユウゴの兄貴にイラっとし「用事済んだら帰れよ!」と怒鳴りつけると、ユウゴの兄貴は「まだ済んでねぇって! うさぎちゃんの連絡先聞かなきゃ帰れねぇって!」と大騒ぎを始める始末。
「ダメだって! このうさぎは俺のだから!」とはっきり言いきると、ユウゴの兄貴は「え? マジで? 嘘だろ?」と言いながら、俺の袖を捲り上げた後、手首をつかみ強引に美香の胸を触らせた。
柔らかい感触がすると同時に、美香は「ちょ!!」と声を上げながら胸を隠し、ユウゴの兄貴は俺の腕を見て「マジ? 鳥肌立ってねぇじゃん」と声を上げ、美香は俺を見て「最低…」と…。
「不可抗力だ」と言っても、美香は聞き入れてくれず、怒りながら更衣室に向かっていた。
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