第107話 査定
苦しみだした美香を前に、それ以上過去の事を告げることが出来ないまま、シャワーを浴びた後、寝息を立て始めた美香の隣に潜り込んだ。
『俺の理性ってすごすぎない?』
そう思いながらも、背中を向けて寝ている美香の上に腕を力なく起き、背中にピッタリとくっついて目を閉じていた。
翌朝、美香は6時に起こしてくれて、朝食を食べた後、自宅に戻る。
まっすぐ2階に行くと、兄貴が「今日、このままここにいるから」と告げてきた。
「え? なんで?」と聞くと、「査定。 年度末近いからな」とだけ。
すぐにユウゴにメールをし【スーツで来い。 兄貴の抜き打ち査定がある】と伝えた後、兄貴の監視のもと、朝の支度をしていると、ユウゴとケイスケが出社し、いつものように朝の準備を手伝い始める。
少しすると、美香が出社してきたんだけど、美香は着替えた後、当たり前のように掃除をはじめ、兄貴は椅子に座ったまま、何かをメモしていた。
その後、大高が出社してきたんだけど、大高は兄貴に「ご無沙汰してますぅ~。 お変わりないですかぁ?」と甘えた声で聞き、兄貴は「ああ」とだけ言うと、資料を見始めていた。
掃除を終えた美香は、俺の隣に立ち、資料に目を通し始め、ユウゴの相談に乗っていた。
しばらくそのまま朝の準備をしていたんだけど、大高は休憩室から出てきても、何もすることはなく、ただただ自分のデスクについているだけ。
4人が慌ただしく作業をする中、大高がパソコンを弄っていると、兄貴が大高に向かって痺れを切らせたように「何もしないのか?」と切り出してきた。
「浩平さんを待ってるんです。 いつも浩平さんから指示を頂いているので」
「あいつは懲戒解雇だ。 二度と来ない」
「本当にご兄弟揃って、ご冗談がお好きなんですね」
兄貴は呆れたように「事実だ。 指示がない場合はどうする?」と聞き、大高は驚いた表情をした後、少し考え「お掃除してきます」と言いながら立ち上がった。
「必要ない。 さっき園田さんがやってた」
「じゃあ~、大地社長、編集教えてください」
「事務員に編集は必要ない」
大高は少し黙った後「…出来る事ってありますか?」と俺に聞いてきた。
「もう終わった」とだけ言うと、大高は黙り込み、兄貴は無言で何かをメモし始める。
『完全にマイナスだよな… もしかして、兄貴、大高を切るつもりなのかな?』
そう思いながら始業時間を迎え、緊張感が高まる中で作業をしていると、電話が鳴ったんだけど、大高は何も気にせず、ケイスケから預かった書類を見ながらパソコンを弄るばかり。
兄貴が「電話に出ないのか?」と聞くと、大高は「浩平さんに出なくていいって言われてるんです」と反論してきた。
「そうか。 大地、彼女の必要性が感じられないんだが、本当に必要か?」
「見ての通りだよ」とだけ言うと、大高が「だから、パートナーにしてくれって何度もお願いしてるじゃないですか!」と、怒鳴るように言ってくる。
兄貴はそれを見ながら「即戦力が必要な状況で君には無理だ。 園田さん、サンライズの案件、早急に頼む」と言い、美香は返事をした後、言われた案件に手を付け始めた。
美香は1時間もしない間に作業を終わらせ「終わりましたので、確認お願いします」と伝えてくる。
兄貴は感心したようにパソコンを弄り「流石だな」とだけ言うと、ユウゴに切り出した。
「篠崎さん、週4にできないか?」
ユウゴは「今確認します」と言った後、すぐにあゆみに電話をしていた。
電話を切った後、ユウゴが「少し落ち着いたそうなので大丈夫です」と言うと、兄貴は大高に向かい「週2勤務に変更だ」とだけ。
大高は「生活ができません!」と言っていたんだけど、兄貴は「仕事をしないやつに給料は払えない。 週2が嫌なら、退社を視野に入れたほうがいいんじゃないのか?」とだけ。
それを聞いた大高は、ただただ黙って俯いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます