第103話 疑惑

美香の家から出社した朝、急いで自宅に戻り、スーツを着替えていると、携帯が鳴り浩平からのメールを受信していた。


メールを開くと、そこには【直行直帰】とだけ。


『あのやろ… 次に来た時に止め刺さなきゃだめだな』


美香から貰った紙袋を持ったまま、急いで1階に行き、休憩室に入ると、ケイスケとユウゴがソファで横になっていた。


「あれ? 泊ったんか?」


二人にそう声をかけると、二人は横になったまま「ああ」と答えるだけ。


「ユウゴ、これ1個だけ食って」


そう言いながら2つの紙袋を手渡し、「1個だけだからな? 大丈夫そうか判断して」と忠告。


ユウゴは袋を抱え、1つ食べた後「うん… 1個じゃわかんねぇ」と言い、2つ目に手を伸ばした。


ケイスケも同じように、別の紙袋を抱え「あれ? こっちミートパイだ。 1個じゃわかんねぇ」と言いながら食べ続ける。


二人は「わかんねぇ。 わかんねぇ」と言いながら袋を交換した後、再度「わかんねぇ」と言いながら食べ進める。


「ちょ! お前ら全部食ってんじゃねぇよ! もう返せ!」


そう言いながらユウゴから袋を取り上げると、袋の中には1つしかない状態。


ケイスケの袋を取り上げようとすると、ケイスケは「もう無いよ?」とだけ。


「ふざけ…」と言いながら残り1つのパイを食べていると、美香が出社してきた。


ユウゴは美香を見るなり「ごちそうさん」と言い、美香は「大丈夫でした?」と不安そうに聞いていた。


「もうちょっと食わないとわかんねぇから、また作ってきて」


美香は笑顔で「お断りします」と言った後、更衣室の中に逃げ込んでいた。


事務所に戻り、ホワイトボードの浩平の欄に記入していると、大高が出社するなり「もう、社長! 昨夜はどこに行ってたんですかぁ?」と聞いてくる。


「美香の家」とだけ言い、資料室に逃げ込んだ。


大高が一人騒ぐ1日を終え、美香は少し残業をした後に帰宅していた。



週末に美香を誘おうかとも思ったけど、じいちゃんとの約束していた週だったため、誘い出すことが叶わず。


シュウジの元へ行き、1日中シュウジに振り回された週明け。


この日は大高が休みだったんだけど、朝一で浩平からメールが来ていた。


【直行直帰】とだけ書いてあるメールを見て、かなりイラっとしつつも、1階に行きホワイトボードに記入していた。


すると美香が出勤し「浩平さん、今日も直行直帰なんですね」と切り出してきた。


「そうだな」と言いながら、ホワイトボードに書かれている『大高真由子 休日』の部分をペンで軽く叩く。


美香は納得したように「あ、そういうことか… でも大変ですよね」と言っていた。


「大変? なにが?」


「あ、いえ… 直行直帰が多くてって事です」


「本当に仕事してればな」


ため息をつきながらそう言い、休憩室へ向かっていた。


忙しくもなく、暇でもないごくごく普通の1日を過ごし、美香とあゆみは2人仲良く事務所を後にしていた。


全ての作業を終え、ユウゴとケイスケの3人で、休憩室でダラダラしていると、突然あゆみが事務所に入ってきた。


あゆみは俺の顔を見るなり「ねぇ、浩平が美香っちに何か頼んでたよ?」と切り出してきた。


「なんかって?」


「わかんないけど、浩平が美香っちに『ダメだって言ってんだろ!?』って怒鳴ってたよ?」


「怒鳴ってた? 待ち合わせとかじゃなくて?」


「そんな感じじゃなかったよ。 美香っち、かなり困ってたし、あたしの顔見たら逃げたんだよね。 浩平のアホ」


あゆみの言葉を聞き「美香に金借りようとしたとか?」と言うと、ケイスケが「あり得るな。 MVPの話したばっかりだし、2日連続で直行直帰。 当たりだろ?」と切り出してきた。


「だな」とだけ言い、美香に電話をすると、美香はすぐに出ていた。


「今から行っていい?」


美香は驚いた様子で「え… 今日もですか?」と聞いてきた。


「そそ。 ちょっとCGのことで聞きたいことあるんだ」と言うと、美香は仕方ないと言った感じで「わかりました」とだけ。


ユウゴに鍵をお願いし、胸を弾ませつつも、美香のいるマンションへと急いだ。


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