第104話 白状
急いで美香のいるマンションに行き、鍵を開けると、チェーンがかかっていた。
『珍しい』と思いながらもドアを閉め、インターホンを鳴らして少しすると、美香はドアを開け「緊急事態ですか?」と聞いてきた。
「そそ。 ちょっといい?」と言い、美香に誘導されて中に入ると、空腹を刺激する香ばしい匂いが漂ってきた。
「あ、ご飯食べます? 今日はパスタだけですけど」
「食う」と短く返事をした後、リビングに行き、慌ただしく準備をしている美香の背中に向かい切り出した。
「さっき浩平に会ったんだって?」
美香は一瞬だけピタッと動きを止めた後、背中を向けたまま「ええ… まぁ…」と、歯切れの悪い感じで答えるだけ。
「何言われた?」
「食べてからにしましょっか!」
『はぐらされた…』そう思いつつも、「…それもそうだな」と返事をした後、ジャケットを脱いでネクタイを外し、忙しそうに揺れる綺麗な髪を眺めていた。
食事をとった後、美香を隣に座らせ切り出した。
「で? 浩平に何て言われた?」
「…たまたま会っただけですよ」
「たまたま会って怒鳴られるっておかしくないか?」
「それは… あの… 悪いことしちゃったんで…」
「悪いこと? 『ダメだって言ってんだろ!?』って怒鳴られたんだろ?」
美香は「ああ… それはですね… えっと…」と、しどろもどろになるばかり。
『こりゃ口止めされてんだな… すんげぇ困ってるし… ちょっとイジメてみるか』
そう思いながらも、「俺に聞かれたらまずいこと?」と聞くと、美香は「いえ…そうじゃないんですけど…」と言いながら唇を触り始めた。
「じゃあユウゴ?」
「いえ… えっと… 何て言いましょうか…」
困りながら言葉を選ぶ美香の耳に口を近づけ、「話して」と囁くように言うと、美香は体をビクッと跳ねさせた後、顔を真っ赤にしながら片手で耳を抑えた。
『弱点見つけた』
そう思うと少しだけウキウキしてしまい、後ずさりをするように徐々に離れていく美香に、徐々に近づいていた。
「ほら、早く話して」
「楽しんでます?」
「かなりな。 浩平に何吹き込まれた?」
「いや、あの… あ、ケイスケさんのお姉さんが入院してて、大丈夫かねぇって言ってただけです」
「嘘だろ?」
「…バレました?」
苦笑いを浮かべる美香に覆いかぶさり、耳元で「正直に言わないとお仕置きするよ?」と囁くと、美香は「嫌です!」と言いながら、胸を押し返してくる。
「じゃあ言う?」と聞くと、美香は「どうだったっけなぁ」と、顔を背けながらとぼけるばかり。
もう一度、耳に近づき、触れそうで触れない距離で「話して」と囁くと、美香は苦しそうな吐息を漏らし始めた。
上半身を起こし「いい加減に言わないと、限界なんだけど…」と本音を言うと、美香は「限界?」と聞き返してきた。
「あ、いや… どうしても言わない気?」と普通に聞くと、美香は口ごもりながら「雑談してただけです…」と、聞き取れない程の小さな声で言ってきた。
「もしかしてさ、家族が入院してるから、金貸してくれって言われた?」
ストレートにそう聞くと、美香は「え? ご存じだったんですか?」と聞き返してくる。
『なるほど… 兄貴も姉貴も母親も使ったし、残るは親父しかいないか』と思いつつも、「サンキュ」と言った後、美香の唇に貪りついた。
普段だったら絶対に聞けないような、美香の甘くて切ない声を感じつつも、唇を耳元や首筋に滑らせ続けていると、美香が背中にしがみついてくる。
『やばい… マジで可愛い… めちゃめちゃ柔らかいし、好きすぎるんだけど…』
理性が飛びそうになっていると、携帯が鳴り響いた。
鳴り続ける携帯を気にも留めず、柔らかい美香の肌に夢中になっていたんだけど、美香は俺の胸を押し、真っ赤な顔をしながら「…携帯 …気になります」と、小声で言ってきた。
ため息をつきながら体を起こし、携帯を見ると、【ユウゴ】の文字。
急いで電話に出ると、ユウゴは「浩平捕まえて白状させたわ。 美香に金借りようとしてたらしい。 応接室にいるから今すぐ来てくれ」と切り出してきた。
ため息交じりに「わかった」と言った後、電話を切ると、美香は不安そうな顔で見てくる。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ。 ちょっと行ってくるけどここに居て。 すぐ戻るよ」
そう言った後、すぐにジャケットを手に取り、マンションを飛び出した。
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