第96話 疑問

かおりさんとのランチミーティングを終えた後、店の外に出て挨拶をしていると、かおりさんが俺の腕を引っ張り、顔を近づけてきた。


『やべぇ!』と思ったけど、全くと言っていいほど寒気は起こらないし、手も震えない。


『なんで?』と思っていると、かおりさんが小声で「美香に惚れてるんでしょ?」といきなり聞いてきた。


思わず「え?」と聞き返すと、かおりさんは「ヒデから『やきもち焼かれた』って聞いたわよ」と、いたずらっ子のような表情を浮かべてくる。


「そ、そうですか…」


「まぁ無理もないもんねぇ。 あの子、すごい純粋だし、しっかりしてるし、気遣いもできるし、欠点と言ったら真面目すぎて、堅物なところかな? あと地味」


「確かに頑固ですよね…」


「一目惚れ?」


「はい。 同じ高校だったんですよ。 入学式の時に…」


『何の話してんだ?』と思っていると、かおりさんは「うひょ~! 一途だねぇ」と言った後、真剣な表情をして切り出した。


「白鳳の山根には気を付けなさい。 美香をぶっ壊した張本人。 いいわね?」


「はい。 わかりました」


そう言った後、かおりさんは美香に挨拶をし、駅へと向かっていった。



美香と肩を並べて歩いているときに、美香に切り出した。


「なんかすごいな。 あの人」


美香は「飲むともっと凄いんですよ。 酒癖悪いし、口も悪いけど、大好きな人なんです」と言いながら笑いかけてくる。


『大好きか… 俺のほうから言ってもないし、言われた事もないな…』


そう思うと、妙な寂しさが膨れ上がってしまい「…そっか」としか言えなかった。


妙な寂しさを抱えつつも、事務所に戻ると、大高が「おかえりなさぁい」と言いながら両手を広げてくる。


『うぜぇ…』と思いながら大高の横を通り抜け、ユウゴに「なんか問題あった?」と切り出した。


ユウゴは「ないよぉ~」とだけ言い、作業を続けるばかり。


自分の席に着き、打ち合わせた内容をまとめようとしていると、大高が美香と俺の間に立ち、徐々に右側に寒気が襲ってくる。


大高は「社長がいなくて困ってたんですぅ」と甘えるような声を出し、一方的に話始めてきた。


「いい加減仕事しろ」と怒っても、「いつもは浩平さんが指示をくれるんですけどぉ、今日はいないから困ってたんですぅ」と、甘えた声で言ってくるだけ。


「ケイスケ、指示出してくれ」と言っても、大高は「ケイスケさんは制作で忙しいじゃないですかぁ。 それに社長直々に指示をいただいた方が、モチベーション上がるんです」と、甘えた声で言うばかり。


ふつふつと、鳥肌が立ち始めたことを感じながら『うぜぇ…』と思っていると、大高はいきなり切り出してきた。


「私に編集教えていただけませんか? 美香さんよりもっと良い物が作れると思うし、公私ともに社長のサポートを完璧に熟す自信があります!」


その瞬間、大高の体に右腕が触れてしまい、一気に全身に鳥肌が立ち始め、寒気までもが起こる始末。


「お前には無理だ」とだけ言い、2階に駆け上がると同時に、浴室へ駆け込んだ。


『無理無理… あいつが俺のサポート? 絶対に無理』と思いながらシャワーを浴び、大高に触れた部分を赤くなるまで擦り続けた。


『なんで? かおりさんの時は何もなかったのに、時間差で来たのか?』


そう思いながら、なかなか引こうとしない鳥肌を擦り続けていた。




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