第95話 作り笑い

浩平に最後通告をした後、美香の手料理を食べた翌日。


朝の準備をしていると、浩平からメールが来て【体調不良だから病院に行ってから行くわ】とのこと。


『今度は自分かよ… 忙しい奴だな…』


そう思いながら【病院の領収書もってこい】と返信したんだけど、浩平からは返事がなく『慌てて病院に行こうとしてるのかもな…』と、呆れながら作業を続けていた。



始業時間が過ぎると同時に電話があり、美香が対応していたんだけど、美香はどこか嬉しそうな表情を浮かべ、話し続けていた。


すると美香は電話を保留にし「社長、かおりさんが次回の案件について、ランチミーティングを希望されていらっしゃるんですけど、本日のお昼、ご予定ってありますか?」と聞いてきた。


「今日は何もないし、比較的落ち着いてるから行けるよ」


「承知しました」


美香はそういう言うと電話を切り「11:30に駅前にできたイタリアンのお店です」と言ってきた。


『前に2人で行ったところか…』と思いながら「OK」と言い作業を続ける。


11時を過ぎたころ、美香と2人で外出準備をしていると、大高が「二人でずるくないですか?」と、ふてくされながら言ってきた。


「仕事の打ち合わせでずるいってなんだよ?」と聞くと、「私も行きたいです」と、不貞腐れたような口調で言い始めた。


苛立った気持ちを抑えながらも「事務員が行って何の話するんだよ? 行ったところでわかんねぇだろ?」と言うと、美香が「社長、お時間です」と切り出してきた。


「ああ」とだけ言い、逃げるように二人で事務所を後にした。



『ほんとあいつは何なんだよ… 毎晩毎晩… 週3しか入ってないから、自分は寝不足でも余裕かもしれないけど、俺はほぼ週6、下手したら週7状態だぞ… 寝かせろっつーの』


そう思いながら歩いていると、自然と歩くスピードが速くなってしまう。


しばらく考えながら歩いていると、美香が倒れこむようにもたれかかってきた。


『あ、美香と一緒だったんだっけ… やべ』


そう思いながら「悪い。 大丈夫か?」と聞くと、美香は苦笑いを浮かべながら「ご機嫌斜めですか?」と聞いてきた。


「いや… あの… ごめん」としか言えず、美香と並んで指定された店に向かった。


店に入るなり、美香は「かおりさ~ん」と言いながら笑顔で手を振る。


すると、手を振り返していた長身でスレンダーな女性は「美香ちゅわぁぁぁん」と言った後、俺に軽くお辞儀をしてきた。


軽くお辞儀をした後、女性に近づき、名刺交換をした後に椅子に座る。


そのまま打ち合わせをしていたんだけど、美香は話しながらジャストのタイミングで資料を手渡してくれたり、説明の際にメモ書きをしたりと、かなり手際よく動いていた。


『すげぇ… サポート完璧じゃん…』


そう思いながら話していると、かおりさんが「美香ちゃん、この社長若いのにしっかりしてるね」と感心したように言い、「お褒めのお言葉ありがとうございます」と軽くお辞儀をした。


するとかおりさんは「ヒデから聞いて、成り上がりのクソガキだと思ったけど、そんなことないじゃん。 立派立派」と感心したように言っていた。


『成り上がりのクソガキ…』


思わず顔を引きつらせていると、美香が「ヒデさんとお会いになられたんですか?」と聞いていた。


「こないだ監督と3人で飲んだ。 白鳳もえげつないやり方するよねぇ」


「確かに… あれは酷いですもんねぇ」


「そういえば例のOP、近々OPだけ先行公開するらしいよ? 見たら?」


「えー… 見たら悔しくて泣いちゃうかも」


「泣いたら抱きしめて慰めてあげるよ。 そのまま帰れると思うなよん?」


『話が分かんねぇ…』


そう思いながらも、かなり前にユウゴに言われたことを思い出し、笑顔を作ることしかできなかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る