第97話 アレ
シャワーを浴びた後、ワイシャツとスラックスだけの状態で、ソファに座り体質のことを考えていた。
『この体質ってマジでやばいよな… かおりさんはなぜか大丈夫だったけど、また打ち合わせの時に女性が来ることもあるだろうし… 打ち合わせも完全に兄貴のところに任せるかな… 治療って精神科なのかな…』
そんな風に思っていると、ドアがノックされ、思わず息をひそめてしまった。
しばらく息をひそめていると、美香の「社長、資料をお持ちしました」と言う声が聞こえ、慌ててカギとドアを開けた。
美香は俺の顔を見るなり「体調不良ですか?」と聞いてきた。
「いや、大丈夫だよ。 入って」と言い、美香を奥に誘導し、玄関の鍵を閉める。
美香はテーブルに資料を広げ、説明をしていたんだけど、真面目な表情で仕事の話を始める美香が愛おしくなってしまった。
美香の髪を撫でながら話を聞いていると、美香は「勤務時間内だからセクハラで訴えますよ?」と言ってくる。
「時間外ならいいの?」と聞くと、美香は「ダメです」って言うだけで、逃げようとはしなかった。
仕事の話を終えた後、美香の肩を抱き寄せ、小声で「美香…」と言うと、美香は思い出したように切り出してきた。
「素朴な疑問なんですけど、最近、さりげなく呼び捨てにしてますよね? 社長と副社長」
「嫌?」
「呼ばれ慣れてるから良いんですけど、急に呼び捨てになってるから、どうしたのかなって… 真由子ちゃんは苗字じゃないですか。 でも、私だけ下の名前で呼び捨てだから『アレ?』って…」
「ああ、裏で呼び捨てにしてたからなぁ。 気付かない間に呼んでるのかも」
「裏で呼び捨てだったんですか?」
「うん。 高校の時からな」
美香はこちらを向き「高校? あ、悪口ばっかり言ってたんでしょ?」と、いたずらっ子のような表情で言ってくる。
「逆」と言いながら美香の唇に唇を重ね、そのまま美香を押し倒し、嫌なことを忘れるように唇に貪りついていた。
『何もかも忘れそう…』
そう思っていると、美香は俺の胸を押し返し、赤い顔をしたまま「…勤務時間中です」と小声で言ってきた。
「そういやそうだったな… なぁ、夜、家行っていい?」
「今日は… ちょっと…」
「用事?」
「いえ… あの… そうじゃなくて… えっと…」
口ごもり、歯切れの悪い美香に「はっきり言おうぜ?」と切り出すと、美香は赤い顔をしたまま「アレなんです…」と、小声で言ってきた。
「アレ?」
「あの… 女性特有の…」
「あ、アレね! そっか。 アレか… 別にそう言うつもりじゃなくて、一緒に居たいなぁって思っただけなんだけど…」
「す、すいません… すごい眠くなっちゃうタイプなので、帰ったらすぐ寝ちゃうかもしれなくて…」
「そっか… 無理しないで早退していいからな?」
「承知しました。 無理そうだったら、お言葉に甘えさせていただきます」
美香はそう言うと体を起こし、資料をまとめ始める。
『そっか… 女って大変だよなぁ…』
改めてそう実感しながら、資料をまとめ、美香と1階に降りていた。
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