第94話 独り占め

浩平との話し合いを終えた後、事務所に戻ると美香がデスクで待っていた。


美香は待っている間、ユウゴの仕事も終わらせていたようで、「副社長、これやっておきました」とファイルを差し出しながら言い、ユウゴはデスクに突っ伏し「ああ」と短い返事をするだけ。


美香が立ち上がると、ユウゴが「美香、腹減った。 なんか買ってきて」と切り出していた。


美香は小さなため息をついた後、「何がいいですか?」とユウゴとケイスケに聞くと、二人ともそこまで思考が回らないようで「何でもいい」とだけ。


「社長はいかがなさいますか?」と聞かれ、思わず「あー…、 美香の手料理が良い」と、うわごとのように言ってしまった。


するとユウゴはガバっと起き上がり「なにそれ? 新商品? 俺もそれが良い」と言い、美香は必死に「嫌です!」と言っていた。


ユウゴとケイスケの3人で「手料理がいい」と騒いでいると、美香は諦めたように「どういうのがいいんですか?」と聞いてきた。


するとケイスケが「辛い鍋食いたくね?」と聞き、ユウゴとそれに賛同すると、ユウゴが「上で待ってるから早く行ってこい」と言い、美香は渋々と言った感じで買い物に出かけていた。


ケイスケに2階の鍵を渡し「先にこっち終わらせるから、先行っててくれ」と言うと、ユウゴとケイスケは休憩室にあったビールをもって2階へ。


しばらくの間、美香が作ってくれた動画とCGをチェックしていると、美香が買い物袋をぶら下げて帰ってきた。


「かおりさんの案件、どうでした?」


「問題ないよ。 ユウゴの案件は修正箇所あるけど、明日ユウゴにやらせるからいいや。 サンキュ」


美香は「このまま納品しちゃいますね」と言いながら椅子に座り、メールを送っていた。


『ホント、できる子だよなぁ…』


そんな風に思いながら資料を片付けていると、美香は資料室に向かっていた。


美香の後を追いかけ、資料室に入ると、綺麗な髪をした後姿は、ファイルを棚に仕舞っていた。


美香にもたれかかるように抱き着くと、美香は「ちょ…」っと声を上げた。


小さな抵抗を見せる美香に「少しだけ… ちょっとだけ我慢して…」と言うと、美香は抵抗をやめ「お疲れですね」と小さな声で告げてきた。


「かなりな。 もうこの話辞めよう… 今週末ってなんかある?」


「あ、静香と約束してますね…」


「そっか… 残念」


「すいません…」


「いいよ。 もう少しこのままで居させて…」


静まり返った資料室の中で、暖かく、優しい空気に包まれていた。


『癒される… このまま独り占めしたい…』 


そう思いながらも、美香にもたれかかっていると、2階から「早くしろよ~。 腹減ったぁ」と言うユウゴの声が…


「ムードもクソもねぇな」と笑い、買い物袋をもって美香と2階へ。


2階に着くとすぐ、美香はキムチ鍋を作り始め、ユウゴは美香の「まだです!」と言う声に耳も傾けず、作っている途中から食べ始め、俺とケイスケもつられるように食べ始めた。


ケイスケは食べながら「辛ウマ! ってか、美香ちゃんは食べないの?」と聞き、美香は「完成したら帰りますよ」と答えていた。


しばらくすると、美香は帰り支度を始めてしまい、慌てて「送るから待って」と言うと、美香は「一人で帰れますからゆっくり食べてください。 お疲れさまでした」と言い、逃げるように2階を後にしていた。


ユウゴは食べながら「早く追いかけろ。 そうすれば俺の分が増える」と言い、独り占めするようにガツガツ食べ続け、負けじと食べ進めていた。

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