第92話 呆れ
週末に美香に癒された後、兄貴の奥さんにかなり疲労してしまった週明け。
昨晩も大高の電話攻撃があり、全くと言っていいほど眠れなかった。
重い体を引きずるように1階へ行き、朝の準備をしていると、ユウゴとケイスケが出社してきた。
「二人って珍しくね?」と声をかけると、二人は顔を見合わせてにやにやし始め、休憩室に誘導してきた。
「なんだよ?」と聞くと、ユウゴはニヤニヤしながら「コンビニでアレを買った後、美香のいるマンションに行くってどういうことなのかなぁ?」と聞いてきた。
「は? 見てたん?」
「見てたも何も、俺ら真後ろにいたし」
「なんで声かけねぇの?」
「急いでたみたいだからかけそびれたんだよ。 ついでに尾行した。 で? どういうこと? 付き合い始めた系?」
ため息をついた後「どうもこうもねぇよ」と言った後、「気が付いたら朝だった」と言うと、二人はポカーンとした表情をしていた。
「大高のせいで完全に寝不足だったんだよ。 美香、風呂長いし、ベッドで待ってたら朝になってるし… どっか行こうかと思ったけど、美香は約束があるし、俺は兄貴に呼ばれるし…」
不貞腐れながらつぶやくように言うと、ケイスケが「…ご愁傷様?」と言ってきた。
「うるせーよ」とケイスケに八つ当たりをすると、休憩室のドアが開き「おはようございます」と言いながら美香が入ってきた。
その後すぐに大高と浩平が休憩室に入り、無言で休憩室を後にしていた。
3人で資料をまとめていると、美香は休憩室から出るなり、事務所の掃除をし始めた。
「美香、それ大高にやらせてこっちやってもらっていい?」と切り出すと、美香は「承知しました」と言った後、自分のデスクにつき、資料の仕分けを手伝い始めた。
休憩室から出てきた大高に、事務所の掃除をするよう言うと、大高は「でも、掃除って美香さんの仕事ですよね?」と言い始める。
「いや、こっちのほうが重要だからそっちやって」と言うと、大高は「でもでも~~~」と言いやろうとしない。
すると浩平がカバンから数枚の紙を出し「仕事取ってきたからこれもやっとけな」とケイスケに言った後、大高に「後でやらせるからいいよ」と言い、二人でデスクについていた。
結局、誰も掃除をしないまま、始業時間を迎えてしまい、昼休憩を挟んで少しすると、ケイスケが「社長ちょっと」と言い、書類を持って二人で休憩室へ。
休憩室に入ると、浩平の持ってきた案件を見せてきたんだけど、どれもこれも割に合わない仕事ばかり。
酷いものは10分程度の編集で、100円と言うものもあり「なんだこれ?」としか言えなかった。
「もしかしたら、クラウドソーシング使ったんじゃないかな? 結構出てるらしいんだよね。 ほら、動画配信サイトで収益化できるじゃん」
「それだったら外に出る必要なくね?」
そう言いながら紙を見続けていると、成人向け動画のモザイク編集までもが記載されていた。
呆れかえってしまい、ユウゴを休憩室に呼び出した後、資料を見せると、ユウゴは「は? 割に合わなすぎるだろ? 大体、成人動画のモザイク処理って、うちじゃ受けない案件だよな?」と、呆れかえるばかりだった。
ユウゴが紙を捲る音がする中、ため息をついた後、ふと思いつき「クラウドソーシングって事は、アカウントを作ったってことだよな? 会社名出してないよな?」と切り出した。
ケイスケは思いついたように「あ… あり得るかも…」と言った後、すぐにスマホをいじり「あった。 ここだ」と言い切った。
画面を見ると、詳細も金額も全く同じだったんだけど、落札者が一人しかいなかったため、すぐに特定できることができた。
幸い、会社名は出ていなかったんだけど【某映像制作会社で技術者として勤務中】と書いてあった。
「ここでも嘘ばっかりなんだな…」とつぶやくように言った後、急いで浩平を呼び出し、応接室に移動した。
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