第91話 恐怖
兄貴のメールに書かれていた弁護士事務所に行くと、すぐに部屋へ案内された。
部屋の中には、兄貴と兄貴の奥さん、そして弁護士の3人だけ。
兄貴に誘導され、椅子に座ると、弁護士が話し始めようとしたんだけど、兄貴の奥さんは「こいつよ! こいつのせいよ!」と、俺を指さしながら怒鳴りつけてくる。
何の話をしているのかわからず「は?」とだけ言うと、兄貴の奥さんは「とぼけんじゃないわよ! あんたがチクったんでしょ!? 名誉棄損よ!!」と怒鳴りつけてきた。
兄貴は呆れたように「大地は関係ないって何度も言ってるだろ?」と、珍しく声を荒げていたけど、兄貴の奥さんは全く聞き入れず、「兄弟だからって庇うんじゃないわよ!」と怒鳴りつけるばかり。
「ちょっと待てって。 何の話?」と聞いても、兄貴の奥さんは怒鳴りつけるばかりで、何の話をしているのかさっぱりわからなかった。
兄貴はため息交じりに「後で話す」と言った後、ギャーギャー喚く奥さんを、他人のように眺めていた。
しばらくすると、喚き疲れたのか、兄貴の奥さんは言葉を止め、肩で息をし始める。
すると弁護士が「この件に関して、弟さんは関係ありません。 これらの証拠は、すべて興信所からのものです」と言うと、兄貴の奥さんは「嘘つくんじゃないわよ! あんたまで庇うつもりなの!?」と怒鳴りつけてくる。
『え? そういうこと? 弁護士って離婚の話?』と思いながら話を聞いていると、兄貴が「直近だと夕べも会ってたよな?」と切り出した。
「それもあんたがチクったのね!? 尾行してたんでしょ! このストーカー野郎!!」
「は? 俺は関係ねぇだろ?」
「じゃあ夕べ、どこで何をしてたか言ってみなさいよ!!」
「夕べ?」と言いながら夕べのことを思い出すと、美香と抱き合い、激しいキスをしていたことが頭に浮かんだ。
『言えねぇ… 絶対に言えねぇ… しかも兄貴の前だろ? 無理無理無理。 絶対言えねぇって』
俺の事なんか一切気にせず、兄貴の奥さんは「早く言いなさいよ!!」と怒鳴りつけるばかり。
「な、なんだって良いだろ!? ゆ、夕べは家に居たんだよ!!」
「家に居たっていう証拠を見せなさいよ!!」
「んなもんあるかよ! 大体自分が浮気したのが悪いんだろ!? 俺のせいにすんじゃねぇよ!!」
そう怒鳴りつけると、兄貴の奥さんは奇声を上げながら目の前に置いてあった大きな茶封筒を俺に投げつけてきた。
それと同時に封筒の中身が飛び散り、物的証拠となる写真が四方八方に散らばる。
そこにはホテルの前でキスをしている写真や、どこかの部屋のベッドの上で抱き合っている写真、さらには裸で重なり合っている写真までもが視界に飛び込み、思わず吐き気を催してしまった。
兄貴は「大丈夫か?」と言いながら背中に触れてきたけど、限界が来てしまい、慌てて部屋を後にし、トイレに駆け込んだ。
『雑誌とかは大丈夫なのに何で? 知らないやつなら大丈夫ってこと? 敵意をむき出しにしてる奴は無理ってこと? じゃあなんで大高と雪絵は無理なんだ? 恐怖を感じるとダメなのか? 美香は大丈夫なのに… 美香はもっと触れたいって思うのに… やべぇ… 美香に会いたい…』
そう思いながら顔を洗っていると、兄貴がトイレに入るなり「大丈夫か?」と聞いてきた。
「ああ」と短く返事をすると、兄貴は「上原さんに聞いた。 お前、女性恐怖症なんだってな?」とため息交じりに言ってきた。
「いや、そんな大げさなもんじゃねぇし、全員が全員無理ってわけじゃねぇよ。 もう帰っていいか?」
兄貴は「ああ。 悪かった」と言った後、トイレを後にし、その少し後にその場を後にしていた。
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