第85話 暴露
美香とユウゴの二人と、浩平と大高の雲泥の差を目の当たりにしつつも翌日を迎えた。
相変わらず、大高は深夜付近に電話をかけてきたせいで、翌日も寝不足の状態に。
休憩室の机に資料を並べたまではいいんだけど、まったくと言って良いほど頭が働かず、ソファで横になり、ウトウトしていた。
するとユウゴが出社し「飲みすぎた…」と切り出してきた。
「二日酔い?」
「うん。 足が浮腫んで痛い」
「痛風なんじゃね?」
「脹脛だから違うだろ? 昨夜、飲みながら家でCADの練習してたからかな? ずっと座りっぱだったし」
「ああ。 そうかもな」
寝転がったままユウゴと会話をしていると、ユウゴはソファの背もたれに足を乗せ、座面に背中を付けた後、力なく頭を垂らしていた。
「吐くなよ?」
「大丈夫。 そんなもったいない事しない」
「どのくらい飲んだん?」
「昨日はビールの500を2本と、芋焼酎を半分くらいかな?」
「完全に飲みすぎだろ」
そう言いながら笑っていると、美香が出社し、ユウゴを見るなり呆れかえった表情を浮かべ、「なんていう格好してるんですか?」と聞いていた。
ユウゴは「ん? ずっと座りっぱだったから足がむくんじゃってさぁ」と言い、動こうとしない。
通路が狭いせいで、美香はユウゴの足が邪魔して更衣室に行くことができず。
美香はしびれを切らせたように「あの、通れないんで、足退かしていただけますか」と言うと、ユウゴは足を上にあげた。
どこかの映画で見た光景に『バカだ…』と思いっていると、美香は通路を通ろうとした瞬間、ユウゴは「ガシッ」と言いながら足を下げ、美香は挟まれていた。
「…何してるんですか?」
「捕獲」
「邪魔です。 退かしてください」
「退かせるもんなら退かしてみろ」
ユウゴにそう言われ、美香はイラっとした表情のまま無理矢理前進すると、ユウゴは情けない声を出しながら横になる。
『やばい。 美香がキレかけてる』
そう思うと、なぜか嬉しくなってしまい、思わず笑ってしまった。
その少し後にあゆみが出社したんだけど、あゆみは見慣れているのか、ユウゴを気にせず、まっすぐに更衣室へ。
「あ、今、美香が着替えてる」と言いかけると、あゆみは大声で「美香っち~ 開けるよぉ」と言い、中からは美香の「え!? ちょっと待って!!」と言う慌てた声が聞こえたけど、あゆみは気にすることなく、カーテンを開けていた。
あゆみは「あ、着替えてたの?」と言ったまま、カーテンを閉めようとしない。
思わずあゆみの隙間から中を覗こうとしていたけど、あゆみが邪魔して全くと言っていいほど見ることができず。
あゆみは「えーいいじゃん。 ピンクのブラかわいいよ?」と大声で言い始め、美香は泣きそうな声で「言わないで!」と必死に声を上げていた。
美香とあゆみが言い合う中、ふとユウゴを見ると、ユウゴは中を探るように視線を変えている。
イラっとしながらも「いい加減、閉めてやれよ」と言うと、あゆみはやっとカーテンを閉めていた。
ユウゴは向きを変え、ちゃんとソファに座ると、小声で「見えた?」と聞き、顔を横に振った。
ユウゴは惜しそうに「もうちょいあゆみがこっちに行ってくれればなぁ…」と、悔しそうな声を上げると、あゆみが身の上話をする声が聞こえてきた。
「認知症。 静かにしてくれればいいんだけど、キレるんだよねぇ。 財布の金取ったとか、急に奇声を上げて物投げてきたりさぁ。 この前なんか、ちょっと目を離した隙に徘徊して事故って、しばらく車いす生活だったんだよ? 車いすじゃなくなったらまた徘徊するし、私が寝てる間に出て行っちゃうから、夜中でも探し回らなきゃいけないし、ホントやんなっちゃうよ… あのケーキ屋、雑誌でよく見るから、ずっと気になってたんだよね! いつか食べるって思ってたんだけど、介護あるし、遠くて行けないじゃん? 美香っちのおかげで長年の念願達成できた! 本当にありがとね!」
『とうとう暴露したか…』
そう思いながらも資料をまとめ、事務所に戻ると、携帯が鳴り【浩平】の文字が浮かび上がる。
電話に出ると、浩平は「飛び込み行くから直行直帰するわ」とだけ言うと、一方的に電話を切ってしまった。
ふとボードを見ると、【大高真由子 休日】の文字。
『あいつ、なんにもわかってねぇ…』
そう思いながらも、ボードにある浩平の欄に【直行直帰】と記入していた。
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