第84話 雲泥の差

美香との幸せなひと時を過ごした後、シャワーを浴び、カーテンを閉めようとした。


すると、向かいにあるマンションの一室から、光が放たれていることに気が付く。


『まだ寝てないんだ』


そんな風に思っていると、携帯が鳴り、見覚えのない番号が表示される。


『まさか大高? まさかな』と思いながら電話に出るとそのまさか。


慌ててスピーカーにすると、大高は甘えた声で「さっき、駅前で社長をお見かけしたんですぅ」と言ってきた。


「ああ。 美香と飯行ってたからな」


「社長ってご冗談がお好きなんですね。 今度、私もご一緒させてください」


「なんで俺が? 浩平に頼めよ」


「その浩平さんなんですけど、簡単な仕事しか与えてくれないので困ってるんですぅ。 だってね、この前も~~~~」


『うぜぇ…』


ダラダラと話す大高にうんざりしながら、窓の外を見ていると、マンションの一室の電気が消えた。


『もう寝たんだ…』


そう思いながら「もう寝るから」と切り出すと、大高は「編集作業、教えていただけませんか?」と聞いてきた。


「ケイスケに聞いて」と言っても、大高は『でもでもだって』を繰り返す。


あまりにもしつこくて苛立ち、「もう寝るから!」と言って電話を切ると、再度電話が鳴り響いた。


結局、夜中の3時まで電話が鳴り響き、ほとんど寝れないまま起床時間を迎えていた。


『眠い… 完全に寝不足だ…』


そう思いながら朝の準備をし、休憩室のソファで横になり、ウトウトしていると、ユウゴが出社するなり聞いてきた。


「寝不足?」


「ああ。 大高の電話攻撃にやられた」


「マジ? なんで番号知ってんの?」


「浩平」


「うわぁ… 最悪じゃん… 美香に添い寝してもらえば?」


「逆に寝れねぇわ」


「朝からエロイことを…」


「お前が言ってきたんだろ?」


くだらないことを言い合いしていると、美香が出社してきた。


美香は俺の顔を見るなり「社長、昨夜はごちそうさまでした」と挨拶してくる。


ユウゴは驚いた表情をし、美香に「食ったの?」と聞き、美香はキョトーンとした表情のまま「え? あ、はい」とだけ。


「ユウゴ、お前勘違いしてるぞ? 昨夜、飯食いに行ったってだけだぞ?」と忠告すると、ユウゴは「なーんだぁ。 つまんねーの」と言いながらソファに座る。


美香は不思議そうな表情をしたまま、カーテンの向こうに消えると、ユウゴは仕事の話を切り出してきた。


睡眠不足で働かない頭のまま、仕事の話をしていると、美香がカーテンの向こうから現れ、仕事の話を切り出した。


美香は資料を見ながら唇を触り、「うーん… わかりました」と言った後、資料をもって事務所に向かう。


美香を追いかけるように、事務所に行き、美香と仕事の話をしていると、浩平と大高が二人そろって出社してきた。


軽くイラっとしつつも、適当に挨拶をしたんだけど、大高は『浩平に夢中です』と言わんばかりに話し続け、休憩室へ消えていく。


『俺の睡眠時間返せ』と思いながらも始業時間を迎えたんだけど、浩平と大高は話すばかりで手を動かさない。


「ちょっと静かにしてもらえるか?」と言うと、浩平は「怒られちゃったね」と小声で言いながらクスクス笑っていた。


しばらく作業をした後、美香に「悪い、これ3Dにしてもらえるか?」と聞くと、美香は「3面図ありますか?」と聞いてきた。


「今送る」と言うと、ユウゴが「あ、それ俺やる。 不安だから、美香はデモリングチェック頼む」と言い、3D制作に取り掛かった。


大高はそれを見て「かっこいい」と騒ぎ始め、浩平は「それよりこっちやろうねぇ」と、注意を引くように簡単な作業の指示を出す。


『この差だよなぁ… はっきり言ってあの二人はいらないな』


そう思いながらも、必死に作業をする二人に並び、作業をし続けていた。

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