第77話 告白
店に入ると同時に、自分の席に戻り、グラスの酒を一気に飲み干した。
相変わらず、大高と浩平はイチャイチャしていて、騒々しいことこの上ない。
しばらく壁を向いて飲んでいると、大高が「なんか暗いぃ。 せっかくの歓迎会なんだし、もっと楽しく飲みましょうよ!」と声を上げたが、誰もその声に応じることもなく、ずっと黙ってそっぽを向いていた。
しばらくその状態が続いていたんだけど、大高が「私、社長みたいなクールな人がタイプなんです」と言いながら、俺の腕に絡みついた。
その瞬間、またしても寒気に襲われてしまい、無言で腕を振り払った後、荷物を持って席を立ち、美香に向かって「来いよ」と告げた。
美香が無言で荷物を持って立ち上がると、ユウゴが「もう解散しようぜ。 美味くもなんともねぇわ」とため息をつきながら言い、ケイスケも帰り支度を始めていた。
大高は「えー なんでぇ?」とごねていたけど、ユウゴが「じゃあ残れば?」と言うと、浩平が「残ろっか」と切り出し、二人は居残り。
震える手をポケットに入れ、4人で黙ったまま歩き、事務所の休憩室に入った。
休憩室に入った後、美香の前に立ち、ため息をついた後「さっきの話。 新規プロジェクトが始動したら辞めるのか?」と、改めて切り出した。
「現状では何とも言えませんが、もし、会社側が拒否するようであれば、退社も視野に入れます」
「許可したら負担が増えるだろ? また体壊したらどうすんだよ?」
「それはその時考えます」
「それじゃ遅いから言ってるんだろ? 血吐いて倒れるって相当だぞ? わかってんのかよ?」
「一度経験しているのでわかります」
「わかってねぇから言ってんだろが!」
そう怒鳴りつけると、高校の時から今まで溜まっていたものが一気に膨れ上がり、勢いに任せてすべて打ち明けた。
「この前だってそうだし、あの時だってそうだろ? 俺が『手伝おうか?』って聞いたとき、『お願いね』って言ってりゃあんな事にならなかったろ!? 昔っからいつも自分一人で解決しやがって、たまには頼れよ!」
「は? 何の事言ってるんですか?」
「部活の時だよ! 顧問にボール磨きやらされてたろ?」
「…ボール磨き?」
「そうだよ! 部活に遅刻してきて、罰として一人でボール磨いてる時だよ! 廊下に転がってきたボールを俺が拾ったろが! あの時に俺が手伝ってたら、あんなことにならなかったし、ユウゴも学校辞めないで済んだだろうが!」
ユウゴが慌てたように「もうやめろって! んな昔の事掘り返したってどうしようもないだろ!?」と、止めようとしたんだけど、勢いは止まらず「本当の事だろ!?」と、ユウゴに怒鳴りつけた。
ふと美香を見ると、美香はうつむいたままふらつき、倒れそうになっている。
慌てて美香を抱き寄せ「美香? 美香!! おい!! どうした!!」と声をかけると、美香は苦しそうな表情を浮かべるばかり。
「美香!!」と大声で叫ぶと、美香はハッとしたように気が付き、小声で「す、すいません…」と言ってきた。
大きくため息をつき、「無理するとこうなるって事を言ってんだよ。 何でもかんでも自分一人で抱えて、片頭痛だって働きすぎてるからだろ?」と、呆れたように言うと、美香は小声で切り出してきた。
「…違うんです」
「何が違うんだよ? 今だって倒れかけたろ?」
「…違う。 私、昔の記憶がなくて… 思い出しそうになると頭痛がして…」
美香がそこまで言いかけると、ケイスケが「もしかして、限局性健忘?」と聞いていた。
ユウゴが「限…なんて?」と聞き返すと、ケイスケが「限局性健忘。 うちの姉ちゃんと同じだ。 うちの姉ちゃんは系統的健忘も入ってるけど」と、言いにくそうに言ってきた。
「…全く同じです。 お姉さん、治りましたか?」
「ううん。 まだ。 そのままの方が良いかなって。 たまに通院してるけど、今は普通に生活してるよ」
『限局性健忘… 系統的健忘… 部分的に記憶がなくなるってあれだよな… 初対面ぽい反応してたのは、人見知りじゃなくて覚えてなかったってことか? え? 嘘だろ?』
そう思いながらも、美香の告白に血の気が引いているのを感じていた。
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