第75話 絶望
腹立たしいまま定時を迎え、美香が帰宅準備をしていると、ユウゴが「美香、大地、ちょっと付き合え」と、切り出してきた。
美香は苛立った表情のまま「行きません」と言ったんだけど、大高がなぜか声を上げ「いいですねぇ! みんなで行きましょう! 私の歓迎会、してもらってませんし」と、言い出し始めた。
『お前なんて元から歓迎してねぇよ!』と思いつつも、このままじゃいけないと思い、急いで準備をし、美香はユウゴとケイスケに強制連行されていた。
居酒屋に着き、美香はユウゴの隣に座らされ、俺はその向かいで大高の隣。
そのせいで、ずっと左側にゾクゾクとした感覚に襲われ、すっと壁のほうを向いていたんだけど、今度は背中に寒気がする始末。
『飲まなきゃ無理だ』
そう思い、いきなりハイボールを頼んだんだけど、ユウゴは悟ったように「ハイボール濃いめで」と注文しなおしていた。
美香は向かいに俺が座っているせいか、ずっと壁の方を向き、不貞腐れている状態。
俺の隣に座る大高と、その隣に座る浩平は楽しそうにしていたんだけど、ユウゴとその隣に座るケイスケは、一触即発の空気を感じ取ったのか、少し不安そうにしていた。
楽しそうにする二人と、そっぽを向きあっている二人と、それを心配そうに見ている二人。
温度差の激しい中、ユウゴはため息をつき「お前らさぁ、酒の席なんだぜ? もっと楽しくさぁ…」と言ってきたけど、完全に聞こえないふりをし続けていた。
するとケイスケが「美香ちゃんもウーロン茶じゃなくてお酒飲んだら?」と、気を使いながら聞き、美香は「ドクターストップです」とだけ。
大高はその言葉を聞き「えー! こんなのおいしいのに可哀想!! 私なら耐えられなぁい」と、悲鳴に似た声を上げていた。
『うるせーな』と思いながら、黙ったままハイボールをぐびぐびと飲み干す。
ユウゴは空になったグラスを見て、不安そうにおかわりを注文したんだけど、店員に「薄目で」と付け足していた。
温度差の激しいまま時間が過ぎ、大高と浩平はかなり酔いが回っているようで、下ネタのオンパレード。
『アホか…』と思いながらハイボールを飲んでいると、大高が突然「美香さんって何カップですかぁ?」と聞いていた。
思わず聞き耳を立てていると、美香は呆れたように「さぁね」とだけ。
『言うわけないよな…』と思っていると、大高は「私Eカップなんですぅ」と、声を上げていた。
すると、浩平が「マジ?」と言い、すぐに二人は大喜びしながら「やっだ~! 触ったぁ!」と声を上げていた。
『くだらなすぎ。 美香を誘い出して帰ろ』と思ったら、大高が俺の手首をつかみ「社長も触って」と言いながら、自分の胸に押しつけてくる。
その瞬間、吐き気を覚えるとともに、全身に鳥肌が立ってしまい、慌ててトイレに駆け込もうとすると、美香も立ち上がり、慌てたように店の外に出て行った。
『え? ちょ、追いかけなきゃ…』
そう思っていても、吐き気と全身の寒気を取り除くことができず、慌ててトイレで手を洗った後、急いで美香を追いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます