第74話 険悪

監督とヒデが帰った後、普通に作業をしていたんだけど、チラッと美香の顔を見ると、美香はかなり不貞腐れた表情をしていた。


しばらくすると、美香は苛立ったように立ち上がり、資料室の中へ。


『話し合わなきゃダメか…』


そう思いながら立ち上がり、資料室に行ってすぐ、美香に切り出した。


「なんか文句あんのかよ?」


「ある」


「なんだよ? 言えよ」


「仕事のオファーでしょ? ちゃんと会社通して正規の段取り踏んでるでしょ? なのにあんな帰し方、失礼にも程がある!」


「美香が欠けたら回んねーだろ!? 募集かけても来ねぇし、電話すら鳴ってねぇだろ!? 美香が休んでる間、かおりってやつのとこからオファー来たらどうすんだよ? あいつは別料金払ってまで、美香を名指しで指名してんだぞ? わかってんのかよ!」


「わかってるよ! だから最大限配慮してくれるって言ってたんじゃん!」


「わかってねーから言ってんだろが!」


思わず怒鳴りつけると、ユウゴが資料室に飛び込み「ちょっちょっちょ」と言いながら、慌てて止めに入った。


すると美香が「もういい。 勝手にプロジェクト参加する」と言い出し始め、それに対してかなりイラっとしてしまった。


「ふざけんな。 許可する訳ねーだろ? お前は俺の隣にいればいいんだよ!」


「お荷物みたいな言い方しないで!」


「してねーだろが!」


怒鳴りつけると、ユウゴが「お前ら落ち着けって!! 勤務時間中だろが!!」と、俺と美香を静止させる。


美香は苛立った表情のまま事務所に戻っていた。


「大地、ちょっと落ち着けって」


ユウゴは呆れたように言ってきたけど、苛立ちを抑えきれなかった。


「あいつが欠けたら回んねぇだろ?」


「そりゃそうだけどさぁ… 正式なオファーっつっても、人手不足で受け入れる余裕がないのも事実だし、美香がやりたがってるのもわかるだろ? 俺がOP見つけたとき、あんな嬉しそうな表情してたんだぜ? 兄貴に話して調整するなり、なんか方法があるだろ?」


「そのまま独立されたらどうすんだよ? 潰れちまうぞ?」


「そりゃそうだけどさ… んじゃ、俺がCG覚えればいいか? そうすりゃなんとかなるだろ?」


「指名来てるところはどうすんだよ? どこも高額案件だぞ?」


「それは… どうしようもないよな…」


ユウゴはため息をつきながらソファの背もたれに腰かけ、しばらく考えた後「残るよう説得するしかないか…」と、諦めたようにつぶやいていた。


しばらく黙った後ユウゴが「独立しても、うちで外注として扱うとかは?」と切り出してきた。


「ダメだな。 兄貴が許すわけない。 自由にやれる状況ならまだしも、兄貴の許可がないと何もできないんだぜ? どうしろって言うんだよ…」


ため息をつきながら事務所に戻り、手も足も出ない状況に、ただただ苛立ち、険悪な空気を作ってしまったことに、ため息をつくことしかできなかった。



そのまま作業をしていると、兄貴から携帯に着信があり、慌てて2階へ駆け上がる。


兄貴は電話に出るなり「本田浩平の人事評価シート見たけど、減給処分にしていいか?」と聞かれた。


「ああ。 そうしてくれ」と言い切ると、兄貴は「わかった」とだけ言い、電話を切っていた。


『あっちもこっちも… 頭痛ぇなぁ…』


そう思いながらも1階に行き、自分の作業を続けていた。

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