第55話 無関心

兄貴の奥さんが『不倫している』と知って以降、兄貴は頻繁に俺を呼ぶようになっていた。


というのも、兄貴も仕事が手一杯なのに、奥さんのせいで余計な心労が絶えなくなってしまい、自宅ではほとんど眠れていないようで、俺に仕事の一部を任せ、社長室のソファで仮眠をするように。


『まさか、兄貴に頼られるなんて思わなかったなぁ…』


そんな風に思いながら、兄貴の仕事を手伝っていた。


自分の仕事もあるんだけど、兄貴が調整してくれているのと、美香とユウゴの作業が早いため、連絡事項や注意事項を、電話やメール、時にはメモ書きをするだけで済んでいた。


ただ、CGに関しては、自分のでやらなければならないため、帰宅後に作業をする日々を過ごしていた。


事務所に行かないまま月日が過ぎ、兄貴の元で作業をしていると、兄貴が書類を見ながら切り出してきた。


「園田美香さん、社員にしないのか?」


「え? いいの?」


「作業スピードは速いし、顧客からも指名が入ってる。 ユウゴも彼女に影響されて、作業が早くなってるだろ? 彼女は社員にしたほうがいい」


「わかった。 帰ったら伝えるよ」


そう言った後、すぐに後片付けをし、社長室を後にした。



定時過ぎに事務所に戻ると、帰宅準備をしている美香と、久しぶりに会うことができた。


しばらく顔を合わせることがなかったせいか、ガリガリにやせ細っていた美香は、少しふっくらとし、髪にも艶が戻りつつあった。


『昔を思い出すなぁ…』


そんなことを思っていると、美香は帰ろうとしてしまい、慌てて切り出した。


「あ、美香ちゃん待って。 来月から正社員にするから書類書いて」


美香にそう伝えると、あゆみが不貞腐れたように言ってきた。


「え? ずるくない? なんで後から入った人が正社員なの? そういうのって順番でしょ?」


『ここで見せしめのためにキレろと?』


そう思いながらも「そう思うなら来月から来なくていいよ」と言うと、あゆみは「家庭の事情で~」とか「体調が~」とか、言い訳の言葉を並べてくる。


チラッと浩平を見ると、浩平は我関せずという感じで、帰宅準備を進めるばかり。


『全然聞いてねぇじゃん。 無関心のやつに、見せしめでキレたところで無駄か…』


そう思いながら、美香に書類を手渡し、記入してもらっていた。


あゆみは泣きまねをしながら「すいませんでした。 次からちゃんとします」と言い、諦めたように事務所を後にする。


すると浩平が「次っていつ?」と聞き、ケイスケが「再来年」と、呆れたように答えていた。


浩平は「あーゆーやつってなかなか辞めないんだよなぁ。 おつかれっしたぁ」と言いながら事務所を後にし、思わずため息をついていた。


『あいつ、人のふり見て我が振りなおせって言葉、知らないんだな… 直接言うしかないか… 直接言ったところで聞かないけどなぁ…』


そう思いながら、美香に指示を出しつつ、書類に記入をしてもらっていた。


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