第49話 助け
ユウゴとケイスケが帰った後も、一人黙々と作業を続けていた。
一つの作業が終わると同時に、頭によぎるのはユウゴの『世の中には男好きの男もいるし、当然、女好きの女もいる訳じゃん? かおりってやつが女好きの女だったら、美香、食われるかもな?』と言っていた言葉。
『んな訳ないじゃん。 昔、担当者だったから仲良くなったってだけだろ? 俺も担当持ってるけど、そんなに仲良いいって訳ではないしなぁ… 他の企業はあれが当たり前なのかな? 他で働いた事ないから全然わかんねぇ…』
そう思えば思うほど、不安が募っていき、考えれば考えるほどわからなくなっていく。
全ての作業を終えて2階に上がっても、不安が消えることはなく、食事をとり、シャワーを浴びても、考えがまとまることもなかった。
ベッドに入り、時計を見ると1時前。
『もう帰ってるし、流石に寝てるよな…』
そう思いながら枕の横に置いた携帯を、ぼーっと携帯を眺めていた。
けど、全くと言っていいほど眠くならない。
『…飲むか』
携帯を片手にソファに座り、ウィスキーを飲み始めても、全くと言って良いほど眠くならず、大きくため息をついていた。
『参ったな… 明日も仕事なのに、全然眠くなんねぇ…』
そう思っていると、突然携帯が鳴り【美香】の文字を表示させていた。
慌てて電話に出た後、「おう、どうした?」と聞くと、電話の向こうから「社長… たすけてくださぁい…」と言う、泣き出しそうな声が聞こえた。
「今どこ? 駅?」
「そうです…」
「すぐ行くから待ってろ」
そう言った後、すぐに電話を切り、急いで私服に着替えた後に家を飛び出した。
苛立ちながら走り、美香のいる駅に向かう。
『やっぱりユウゴの言う通り、女好きの女だったんだ。 しかもこの時間に助けを求めるって事は、やる事やってホテル追い出したって事か? 何様だよ』
そう思いながら走っていると、駅前に立つ美香の姿が視界に飛び込んだ。
美香に近づくと同時に、目が潤んでいることに気が付き、苛立ちを抑えきれずに切り出す。
「かおりってやつは?」
「…ホテルで寝てます」
「どこの?」
美香は「そこです」と言いながらホテルを指差し、苛立ちを抑えきれず、「んのやろ…」と言いながら、ホテルに向かって歩き始めた。
美香は慌てたように「え? ちょっと待ってください! 今寝てるんで…」と言っていたけど、その言葉が苛立ちを怒りに変えた。
「だから何だっていうんだよ! 泣かされたんだろ!?」
「はぇ?」
少し間抜けな声を出す美香。
「ごまかさなくていいよ。 ちゃんとはっきりさせるから」
そう言った後、再度ホテルに向かって歩き出すと、美香は何度も「ちょっと待ってください!」と呼び止めてきた。
呼び止める声に耳も傾けず、ホテルに向かって歩き出すと、美香は抱き着くように俺の体を引き留めた。
「ちょっと待ってってば!」
「んだよ。 止めんな」
「ダメです! 止めます!!」
「クライアントだからって、何してもいいってもんじゃねぇだろが!!」
そう怒鳴りつけると、美香は少し黙った後、小さな声で切り出してきた。
「…酔って絡むことがそんなに悪いことですか? 久しぶりに会って、お酒飲んで酔っ払うことがそんなにいけない事ですか?」
「悪いに決まってんだろ? 酔った勢いで襲うとか、人間のやる事じゃねぇよ」
「え? 襲う?」
「襲われたんだろ? しかもやる事やって、こんな時間にホテル追い出すとか、人としてありえねぇだろ?」
「は? やる事って何ですか?」
美香のキョトーンとした表情と言葉に違和感を感じた。
『あれ? 襲われたんじゃないのか? え? もしかして違う?』
そう思いながらも、少しだけ考え込んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます