第50話 誤解
美香のキョトーンとした表情と言葉に、少し冷静になった後、「…何があったか説明してくれる?」と、切り出した。
美香は言いにくそうに少しうつむき、ゆっくりと話し始める。
「かおりさんと食事に行ったんですけど、かおりさんが酔い潰れてしまって、ホテルに運んで介抱したんです。 そしたら終電を逃しちゃって、ホテルの部屋もいっぱいで泊まれなくて…。 タクシーで実家に行こうと思ったんですけど、お店の支払いをしたからお金がなくて、コンビニのATMで下ろそうと思ったら、メンテ中で使えなくて…。 クレジットカードを使おうかとも思ったんですけど、入れ替え忘れてて期限切れで使えなくて…。 困り果てて社長に電話したんです」
今まで考えていた事とは全く正反対の、少し間抜けな言葉に、呆然としてしまった。
「…それだけ?」
「それだけって何ですか!? すっごい心細くて不安だったんですよ!」
「…かおりって女が女好きで、襲われたんじゃねぇの?」
「はいぃ? かおりさん、確か彼氏いますよ?」
『彼氏がいる?』
そう思っていると、頭の中にユウゴの『かおりってやつが女好きの女』という言葉が過る。
怒りをこらえながら「…ユウゴのやろう」と、小さくつぶやくように言うと、美香は不思議そうな顔をしながら「ユウゴ?」と聞いてきた。
「あ、いや、なんでもない。 案内するよ」
そう言いながら美香と並んで歩き出す。
歩きながら『俺もマンションに泊まるって言ったらどんな顔するかな? あの時みたいに【結構です】って断られるかな? 朝まで一緒に居たいけど、最悪、外で寝るとか言い兼ねないよなぁ…』
そんな事を考えながら歩き、マンションの部屋についた後、美香に鍵を渡しながら切り出した。
「家具類移動させてないからそのまま使って」
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
美香はそう言いながら鍵を受け取る。
ここに居ることを諦め「今日も仕事だから早く寝ろよ」と言うと、美香は「今日? 始発で帰りますよ?」と聞いてきた。
「始発で帰って間に合うのか? 出勤時間」
「土曜休みですよね?」
「今日は金曜です。 勘違いしてますよ?」
「え? 金曜? あれ?」
美香は軽くパニックになっているようで、キョトーンとした表情のまま、小さくつぶやくように言った後、小声で切り出してきた。
「…在宅にしていただけませんか?」
「無理です。 素材が来る予定です」
美香は諦めたように「…そうですか」と言い、がっかりと肩を落としている。
『本当は休ませてもいいんだけど、休ませたら会えなくなるしなぁ。 つーか俺、公私混同しすぎじゃね? 最低の経営者だな…』
そう思いながらも、「ま、そういうことだし、なんかあったら、時間気にせず電話して。 おやすみ」と言いながら、頭をポンポンと軽く2回叩き、部屋を後にした。
家に向かう途中、『やっぱり戻ろうかな』とも思ったけど、長い1日を過ごして疲れ果ててるだろうし、俺自身、早く寝ないとかなりやばい。
ふーっと大きく息を吐き、数年前では考えられないほど自然と会話ができていることに、小さな喜びをかみしめていた。
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