第30話 2択
浩平が突然事務所に来た日の定時後。
ユウゴとケイスケの3人で話していると、ケイスケが不安そうに切り出してきた。
「さっきは保留にしてたけど、浩平の件、どうすんの? 」
何も答えられないでいると、ユウゴがため息交じりに言ってきた。
「美香に関してはどうでもいいけど、浩平に借りを作るのは癪だよな」
「俺もそう思う。 美香ちゃんはちゃんと仕事をする子だけど、浩平はちょっとなぁ…」
2人の意見には同意しか出来ない。
けど、美香の情報を聞き出すには、浩平が必要不可欠な状態だった。
浩平を雇って、美香との接点を作るか。
両方とも諦めるかの2択しかないんだけど、どうしても決めることが出来なかった。
「浩平を騙すのは?」
ユウゴが思いついたように切り出すと、ケイスケが顔を横に振る。
「無理だよ。 あいつ、ストーカー気質だから、ここに居座られるよ。 と言うか、血吐いて倒れて入院中って言ってたよね? うつ病かなんかになってるんじゃねぇの?」
「あり得るな… ガリガリに痩せてたりとか?」
「抗うつ剤で太るって聞いたことあるよ?」
「…大地、ショックで寝込むなよ?」
「は? 俺が?」
「どっちにしても、昔の美香じゃねぇって事だ! あとの決断はお前に任せた!」
ユウゴは偉そうにそう言うと、作業を始め、ケイスケはため息をついた後「社長の判断次第っすねぇ~」と言い、作業を始めてしまった。
一晩中悩みまくったんだけど、結局、良い解決案が思い浮かばず、かと言って、浩平を受け入れるのにはリスクが大きすぎる。
散々、悩みに悩んだ結果、突き放すことにしていた。
翌日、浩平は当たり前のように事務所に来て「どうする?」と切り出してきた。
「編集作業覚える気はあるか?」
「編集? 無理無理。 俺、営業以外やる気ねぇから」
「じゃあダメだ。 営業は兄貴のいる親会社でやるから、うちは必要ない」
「ふーん。 だったら必要あるようにすりゃいいじゃん。 つーか、血吐いて倒れたって事は、普通に考えて、仕事辞めんじゃねぇのかなぁ? 生活にも困るだろうし、拾うなら辞めた直後なんじゃねぇのかなぁ?って思うわけよ。 美香、路頭に迷ったりしてな?」
嫌らしく笑いながら言う浩平に、内心、かなりムカついていたけど、美香の名前を聞いただけで、グラグラと揺れ動いしまいそうになっていた。
浩平は追い打ちをかけるように「美香、風俗嬢になったりしてな! そうなったら俺、指名しちゃおっかなぁ」と笑いながら言い始める。
『美香が風俗? それだけは絶対に嫌だ』
そう思った瞬間、口から言葉が零れ落ちてた。
「わかった。 雇うけど、正社員にするのは、美香が正社員として来てからだ。 それまでは時給900円のバイトにする」
「はぁ!? バイト!?」
「交換条件。 バイトが嫌なら諦めろ。 ただし、美香が正社員になったら、正社員にしてやる」
浩平はため息をついた後「OK~。 んじゃ、連絡してみるわ。 明日からよろぴく~」と言って出て行ってしまい、大きくため息をつきながら椅子に座った。
ユウゴはそんな姿を見ながら「あいつ、ホント昔から変わんねぇな? ムカつく」と言い、ケイスケはため息ばかりをついていた。
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