第21話 成人
どこの班よりも早く、卒業制作が終わった数週間後、成人式を迎え、ユウゴとケイスケの3人で、開催場所である市民会館に向かっていた。
ケイスケは着慣れているのか、スーツ姿がよく似合い、俺とユウゴは着慣れていないせいか、妙な違和感があった。
市民会館に着くと同時に、スーツ姿の浩平と振り袖姿の山越が、視界に飛び込んだ。
ほんの少しだけ期待しつつも、2人に歩み寄ると、ユウゴが「美香は?」と聞いていた。
「美香? ああ地元の市民会館行ってるんじゃない? 美香の家、エリア違うじゃん」
わずかな希望すら消え去ってしまい、誰にもバレない様にため息をついていた。
成人式を終えた後、久々に会った中学のみんなで飲みに行こうという話に。
店に移動し、懐かしい仲間たちと飲んでいたんだけど、時間が経つとともに酔いが回り、ふと美香の事を思い出していた。
『美香も今頃、中学の友達と飲んでるのかな…』
そんな事を考えていると、隣に座っていたユウゴが「まだ佐山さんいるん?」と聞いてきた。
「いるよ。 毎日叩きのめされてる」
「怖ぇ… しばらく近づくのやめよ…」
「来いよ。 だんだん面白くなってきたぞ?」
「嫌だ。 あのおっさん怖ぇじゃん」
「否定はしねぇよ」
そう言いながら飲み続けていると、ケイスケが酔いつぶれてしまい、ユウゴが「あーあ。 俺ら帰るわ」と言い始めた。
ユウゴがケイスケを背負い、俺がケイスケの鞄を持つ。
歩きながら、何気なくユウゴに聞いてみた。
「バイト、まだ続いてるん?」
「ああ。 そろそろ潮時かなって思ってんだよねぇ」
「辞めるんか?」
「うん。 最初は社員登用有りって聞いてたんだけど、高卒以上が条件なんだと。 最近知ってモチベダダ下がり」
「…なんか悪いな」
「な~にがぁ~? 別に後悔してねぇし、それに結構優秀なんだぜ? 俺。 作業が早いって褒められてるし、巨乳社員と付き合い始めたし」
「マジ?」
「マジ。 めっちゃ可愛いんだなこれが!!」
のろけ始めたユウゴの話を聞きながら『自分とは縁遠い話だな…』と思っていた。
すると突然、「いいなぁ」と羨むケイスケの声が聞こえ、「起きてたんか?」と聞いた。
「ちょっと前にな。 俺も会社辞めようかなって思ってるんだよね… 上司が酷いワンマンでさぁ… 経理やってるんだけど、期限は守んないし、領収書が合わないと『無理矢理合わせろ』って言うし… 参るよねぇ…」
「なんか数年前には考えられないような会話だよな…」
呟くようにそう言うと、妙な寂しさが湧きがって来る。
「確かにそうだよな… ま、俺は可愛い彼女がいるからいいけど!」
ユウゴが嬉しそうに言うと、ケイスケがユウゴの首を絞め「お前だけリア充かよ!!」と叫び始めた。
「つーか降りろ!」
「嫌だ! 家に着くまで降りねぇし!!」
成人したにもかかわらず、中学の時と同じような会話をしている事に、少しだけ安心感を抱いていた。
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