第22話 メール
成人式を終えた後から、学校の奴らが頻繁に飲みに誘ってくれるようになっていた。
けど、佐山さんが待ち構えているため、行けない日の方が多く、ほとんど毎回のように断っていた。
卒業を目前にしたある日の事、佐山さんから「もう大丈夫です」と言われ、自由な時間が増えるように。
高校の時まで、帰宅すると、誰も居なかった空間に、卒業後は突然中年のおっさんが現れ、それがまた居なくなってしまったことに、少し寂しい気もしたけど、『元に戻っただけ』と、自分に言い聞かせていた。
そんなある日の事。
学校終わりに飲みに誘われ、卒業制作をしたメンバーで飲んでいると、たまたま違う班の奴らが同じ店に入ってきた。
何も気にせず飲んでいたんだけど、2つのテーブルは時間が経つにつれ、1つのテーブルで収まるようになっていた。
「隣良い?」
そう言われて顔を上げると、先日、自己紹介をしてきた雪絵の姿。
「ああ」と言いながら椅子をずらし、少し離れさせたんだけど、隣に座られても違和感を感じなかった。
『酒のせい? 酔ってるからゾクゾクしないのかな?』
そんな風に思いながら飲んでいると、雪絵が携帯を取り出し「ライン教えて」と切り出してきた。
「俺、ラインやってないんだよね」とやんわり断ると、雪絵は「えー。 じゃあアドレスでいいよ。 教えて」と、言い出し、渋々アドレスを交換したけど、違和感や寒気を感じることなく、スムーズに交換することが出来ていた。
その日以降、雪絵は毎日のようにメールを送ってくるようになっていた。
【さっきまでたか子と飲んでた】とか【学校の帰りにパンケーキ食べてきた】とか、正直、どうでもいい内容ばかり。
佐山さんの教えのおかげで、メールが来るとすぐに返信をしていたんだけど、正直、返信内容を考えることが少し苦痛だった。
卒業式を終えた日、学校の男たちだけで飲みに行ったんだけど、若い奴が多いせいか、かなり無理をした飲み方をしていた。
しばらく経ち、かなり酔いが回ってくると、雪絵が当たり前のように隣に座ってきた。
毎日メールをしていたせいか、かなり酔いが回ってきていたせいか、寒気を感じることはなく、ごくごく普通に会話ができるようになっていた。
飲み会を終え、家に帰ろうとすると、「もう1件行こう」と言う話になった。
翌日の予定はないし、帰ったところで誰が居るわけでもないから、すぐに了承したんだけど、2件目に入って少しすると、雪絵がメールで【2人になりたい】と送ってきた。
『これってそう言う事だよな? …酔ってるから大丈夫か?』
期待と不安を胸に抱きながらも、「急用が入った」と言い、店を出た後、ゆっくりと駅に向かって歩いていると、その少し後に雪絵も店を出てきたようで、駆け寄ってきた。
雪絵は駆け寄ってくるなり、いきなり「うち近くなんだけど、2人で飲み直さない?」と言い始めた。
言葉に迷っていると、雪絵は俺の腕を掴んで歩き始め、アパートの前にたどり着いてしまった。
雪絵の家に入ると同時に、雪絵に唇を奪われ、雪絵は勢いに任せて迫ってくる。
襲われるような形で関係を持った後、ふと不安に襲われてしまった。
『酒が抜けたら鳥肌立つんじゃないか?』
そう思ってしまうと、朝までその場に居ることが出来なくなってしまった。
「あ、悪い。 俺明日早いんだった。 帰るわ」
「え? ここから行けばいいんじゃない?」
「いや、朝一に迎えが来るからさ。 ゴメン」
雪絵は少し不貞腐れた表情をした後、「いきなりだったし仕方ないよね…。 けど、今日から私、彼女だからね!」と脅迫めいたことを言い始め、少し寒気を感じつつも、家を飛び出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます