第20話 多忙

親父たちと食事をした翌日から、教習所に通い始め、家に帰ると、佐山さんが待ち構えていた。


学校と教習所で疲れているにも拘らず、佐山さんは言葉遣いやテーブルマナー、お辞儀の仕方までもを教えてくるようになっていた。


クタクタになっているにも拘らず、中年のおっさんからビジネスマナーを教わるのはかなり苦痛。


けど、そんな事はお構いなしに、佐山さんは徹底的に教え込んでいた。


おかげで毎日クタクタになり、泥のように眠る日々。


今まで、ホームヘルパーが来ていたから、掃除、洗濯なんかやったことがなかったけど、それも『自立心を養うため』と、兄貴に契約解除されてしまい、自分でやるしかなかった。


掃除や洗濯をしないままでいると、佐山さんがキレるキレる…


「部屋の乱れは心の乱れだ!」と意味の分からないことを叫び、毎日のように掃除と洗濯をした後、講習が行われていた。



同じ時期にユウゴも教習所へ通い始めたようで、たまたま学科の授業が被り、遭遇した時にはかなり驚いていた。


帰り道、ユウゴにその話をすると、「面白そうだから行きてぇ」と言い始め、家までついて来てしまう始末。


ついてきたまでは良いんだけど、佐山さんにこっ酷く絞られてしまい、ユウゴは帰り際「もう2度と来ない」とまで言い始めていた。


ユウゴが居てくれた方が、ターゲットが散らばるから楽なんだけど、その日以降、ユウゴは教習所で会うと、普通に話し、帰りには俺を避けるように、少し離れた場所を歩いていた。



慌ただしく、忙しい日々を過ごしていたせいか、美香の記憶は薄れ、ほとんど思い出さないようになっていた。


けど、時々、綺麗な髪をした、女の後ろ姿を眺める夢を見る。


正面を見ていないから、美香かどうかはわからないんだけど、目が覚めると同時に、美香の事を思い出していた。


そのせいなのか何なのか、『出涸らし』と言われていた夢は見ることが無くなり、目覚めてすぐに嫌な汗をかくことも無くなっていた。



忙しすぎるくらい忙しい日々を過ごしていたせいか、あっという間に月日が過ぎ、卒業制作の準備に取り掛かる。


俺のいた班は男ばかりだったし、仕切っていた男が、分かりやすく工程表をまとめてきてくれたから、すんなり作業に取り掛かることが出来ていたんだけど、一部の班は意見の相違で揉めているようだった。


すると、揉めていた班の女がこちらに歩み寄り、俺の横に立って文句を言い始める。


横に立って居るだけなのに、じんわりとゆっくり鳥肌が立ち、思わず腕を擦ってしまった。


「どうしたの?」


「え? あ、いや… なんか痒かったから…」


「木村君って面白いよね。 あたし雪絵って言うのよろしくね!」


「はぁ…」


『なんだこいつ。 もうすぐ卒業なのに自己紹介っておかしくね?』と思いながらも作業を続けていた。


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