第14話 手伝い
美香が生徒指導室に呼ばれた日の翌日、部活があるにもかかわらず、美香が姿を現さなかった。
妙な噂が流れているから、かなり嫌な予感はしていたんだけど、抜け出すことも出来ず、ただただ不安に思っていた。
しばらくすると、数人の部員が体育館に入るなり「簿記の申し込みで遅れました」と顧問に告げていた。
顧問は不機嫌そうに「あっそ。 体育館20週」とだけ言い、そいつらは永遠と体育館の中を走らされていた。
部活終了30分前になると、ジャージを着た美香が体育館に現れ「簿記の申し込みが殺到してて遅れました」と顧問に告げていた。
顧問は苛立った表情のまま「簿記の申し込みに殺到? 毎年2~3人しかいないのに? もっとまともな嘘つけよ」と吐き捨てるように言い、美香は「本当です!」と言い切っていた。
けど、顧問は美香の言葉を一切信じず、完全に無視をするばかり。
美香は諦めたようにため息をつき、マネージャーの仕事に追われていた。
部活終了の時間が来ると同時に、顧問は冷たい目で「遅刻してきたんだから、ボールを全部磨いてから帰れ。 嘘ついた罰だ」と美香に言い放つ。
美香は「嘘なんかついてないです!」って言ったんだけど、顧問は全く信じようとはせず、美香は諦めたようにボールを磨きはじめていた。
『可哀想に…』
そう思いながら部室に戻り、制服に着替えていると、なぜかユウゴがこっちを見てくる。
「…なんだよ?」
そう言っても、ユウゴは何も言わず、ただただこっちを見てくるばかり。
続々と部員たちが部室を後にする中、制服に着替え終え、帰りの準備をしていると、ユウゴはようやく着替え始めていた。
「先行ってるぞ」
ユウゴにそう声をかけると、ユウゴは「待て待て」と声をかけてきて、また手を止めてしまい、他の部員が帰るのをじっと見ていた。
他の部員が帰った後、ユウゴは小声で「手伝いに行かねぇの? 1人であの量磨いてんだぜ? 可哀想なんじゃないかなぁ? 手伝ってあげちゃったら、話すきっかけになっちゃうかもしれないんだし、それがきっかけで番号交換出来ちゃったりなんかしちゃって~?」と切り出してきた。
「そっか… お前頭いいな?」
「お前がバカなだけだろ?」
何も言い返すことが出来ず、黙ったまま荷物を持って体育館に行こうとすると、ユウゴがその後を追いかけてきた。
「何でついてくんの?」
「面白そうじゃん。 見てるだけ」
嫌ぁな予感がしつつも、2人で体育館の近くに行き、入口の脇にある階段の陰に隠れると、ユウゴが声にならない声で、怒鳴るように言ってきた。
「何で隠れてんだよ!」
「準備が出来てねぇんだよ!」
「んなもんいらねぇだろ!?」
「いるからここに居るんだよ!!」
「良いから早く行けよヘタレ!!」
「うっせー! 黙って見てろよ!!」
囁くように怒鳴った後、大きく深呼吸をすると、体育館からボールが転がってきた。
慌ててそれを拾いに行き、ボールを持ったまま体育館の方へ行くと、体育館から出てきた美香は、不思議そうな顔をしていた。
裏返りそうな声を必死で抑えながら「て、手伝おうか?」と切り出すと、美香は「ううん。 大丈夫。 ありがとう」と、優しく微笑みながら言い、急ぎ足で体育館に戻って行く。
『話せた… めっちゃ可愛い…』
少し満足しながらユウゴの元へ行くと、ユウゴは拳を俺の肩に振り落とし、囁くように怒鳴りつけてきた。
「何で帰ってくんだよ! あそこは『手伝うよ』つって勝手に手伝うのがセオリーだろ!!」
「え? そうなん?」
「このボケ!! さっさと行ってこい!!」
「今行ったら逆におかしいだろ!?」
「元々おかしいんだから気にする事ねぇだろ!!」
「お前にだけは言われたくねぇんだよ!!」
不貞腐れながら荷物を持ち、大きくため息をついた後、諦めたように公園に向かった。
ユウゴは俺の後ろを歩きながら「ばーか。 へたれ。 あほ」と思い思いの言葉を投げかけてくるけど、それに反論することが出来ず、ただただ黙って公園に向かっていた。
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