第13話 合言葉
美香とは何の進展もないまま、1年最後の学期を迎え、あっという間に2年になっていた。
クラスの大半が学校を辞めている中、俺の周囲では誰も欠けることなく、無事に進級し、ユウゴに至っては、中学の時よりも成績が良くなり、なぜかドヤ顔で過ごしていた。
大勢の新入生が入学してきたが、1人だけ金髪のやたらと目立つ男が視界に飛び込んだ。
ユウゴはそれを見て「あ、チャラ男がいる。 ああいう奴って意外と喧嘩弱かったりするよな?」と言いながら笑い、「確かに見た目だけの奴っているよな」と、鼻で笑っていた。
そんなある日の帰り、公園でたむろしていると、浩平がいきなり切り出してきた。
「そういやB組の園田、超絶ビッチって噂じゃね?」
「は? 何言ってんの?」
「野村が言ってたんだよね。 男なら誰でもいいらしくって、手あたり次第って感じらしいよ? 山本と違ってタダで良いって噂なんだけど、合言葉が無いとダメなんだってさ」
浩平がニヤニヤしながら言うと、ユウゴが浩平の言葉を止めた。
「んな訳ねぇじゃん。 俺、勉強教わってるからわかるけど、あいつはそういう奴じゃねぇよ」
「裏ではわかんなくね?」
「わかる。 もしその噂が本当だとしたら、なんで俺に何にも言ってこない訳? 誰でもいいなら、俺に何らかのアプローチしてくんだろ? それをしないって意味わかんなくね?」
「ユウゴ、バカだから気づいてないだけじゃね?」
浩平の言葉に、ユウゴは浩平を睨みながら「あ゛?」と声を出す。
「ユウゴ…」
そう言いながらユウゴを腕で抑えると、ユウゴは苛立ったように立ち上がり「帰るわ」と言いながら駅に向かい始めた。
ケイスケと2人でユウゴを追いかけ、3人で電車に乗り込むと同時に『また野村か… 山本みたいにならないと良いけど… どうしたらいいんだ?』と考えていた。
浩平の話を聞いた日から、美香の噂は大きくなり、人知れずイライラする日々を過ごしていた。
もし、自分が彼氏だったら、野村に怒ることもできるし、噂が『嘘だ』と大声を上げることもできる。
けど、美香の前で声を発することすら出来ないのに、そんな事をできる訳もなく、ただただイライラする日々を過ごしていた。
美香は時々、生徒指導室に呼ばれていたようで、かなり苛立った表情をしながら教室に戻ってきていた。
それと同時に、野村が嬉しそうな表情をし、他のクラスメイトにコソコソと話しているばかり。
その姿があまりにも頭に来て、初めて野村に話しかけた。
「なぁ、園田のデマ流してんのお前だろ?」
「は? デマじゃねぇって。 マジだよマジ」
「山本の件もお前なんだろ?」
「山本? ああ売りやってたアイツ? 家が超絶貧乏で、体張って稼いでたんだって?」
「それもデマなんだろ?」
「マジだってマジ! 園田に『タダで良いってマジ?』って聞いてみろよ。 『何がですか?』って聞き返してきたら、それがOKの合図なんだって! マジでやってみ? 俺もいい思いしたし」
へらへら笑いながら言う顔にカチンと来てしまい、思わず胸倉を掴んだが、周囲にいた男子生徒たちに止められてしまう。
すると背後から、ユウゴの慌てた声が聞こえてきた。
「ちょっちょっちょ! 大地! 正義感が強いのはわかるけど、ここで殴ったら退学になんぞ。 ちょっと落ち着けって!」
ユウゴに宥められながら教室に行くと、ユウゴは「ちょっと冷静になれって」と、呆れたように声をかけてきた。
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