第15話 最悪の事態
ユウゴの言葉に反論できず、ガッカリと肩を落としながら公園へ行くと、浩平と数人がニヤニヤしながら切り出してきた。
「1年の金髪と黒髪に会わなかった?」
「金髪? ユウゴ見た?」
ユウゴにそう聞くと、ユウゴは首をかしげるだけだった。
「あれ? さっきここに来て『園田美香の噂ってマジ?』って聞いてきたんだよ。 『知らねぇ』っつったら『確かめに行ってみるか』って言ってきてさぁ。 アイツら野村から話聞いたらしいぜ?」
「は!? なんで止めねぇの?」
「だって、本当だったら俺らも良い思いできるじゃん。 山本と違ってタダなんだぜ? すげぇ良くね?」
浩平の言葉に血の気が引き、荷物を放り投げ、すぐに部室へ駆け出した。
ユウゴの呼び止める声に耳を傾けず、ただただがむしゃらに部室へ向かって走る。
途中、ケイスケとすれ違っても、足を止めることなく、急いで部室に向かっていた。
部室の前に着くと同時に、中から物音が聞こえ、急いでドアを開けようと思っても、鍵が閉まっていて開かない状態。
『やべぇ… 番号… ああ手が震える… クソ…』
やっとの思いで鍵を開けると、そこには襲い掛かろうとしている男と、口と手を押さえる男、成す術なく、強く目を瞑っている美香の姿が視界に飛び込んだ。
その瞬間、足が勝手に動き、金髪の男を美香から引きはがす。
何度も拳を振り落とし、足で蹴り上げ、とにかく暴れまくっていたんだけど、不思議と何の音も聞こえなかった。
無我夢中で男2人を殴りつけ、蹴り上げ続けていると、急に腕を掴まれハッと我に返る。
ユウゴは慌てた様子で、小さく怒鳴るように言ってきた。
「大地やべぇ来た!」
「このまま突き出す」
「お前山本の事忘れたのかよ! 美香もあんな風に辞めちまうぞ!」
「こいつらに何をしたか言わせりゃ良いだけだろ!!」
「本当の事を言うと思ってんのかよ! 大体、顧問の野郎、美香の言う事なんか、ひとつも信じてなかったろ!? 美香が誘ったって疑われるのがオチだろうが!!」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!!」
「とにかく隠れろ!! 早く!!」
「クソ…」
急いで美香の手を掴み、サッカー部の片隅でカーテンに包まりながら隠れていた。
美香は小さく体を震えさせていて、それを押さえるように抱きしめていた。
バスケ部の方からは、ユウゴの「ウェーイ」と言う声と、人を殴る音、苦しむ呻き声が聞こえてくる。
それと同時に、右手がジンジンと痛み出し、ふと見ると美香の綺麗な髪が、少しだけ血で汚れていた。
『クソ… なんで… 何でこんなことに…』
そう思うと、自然と腕に力が籠り、美香を強く抱きしめていた。
「中島!! お前何してる!!」
顧問の怒鳴り声と同時に、殴る音が消える。
ユウゴの「とりあえず保健室連れて行くわ。 ほら、立てよ」と言う声と共に、ドアの閉まる音がし、静寂が訪れたけど、美香の震えはなかなか止まらず、しばらくの間、抱きしめ続けていた。
ずっとこうしたかった。
はじめて会った時から、ずっとこうしたかったけど、こんな形で抱きしめたかったわけじゃない。
もっと普通に
もっと普通に笑い合って、抱き合いたかった…
そう思っていると、少しだけ美香の震えが治まると同時に、美香が少しだけ顔を上げてくる。
その瞬間、美香に顔を近付け、唇を重ねていた。
正直言って、自分でもなぜそうしたのかわからない。
そうしたいと言う願望はあったけど、今はするべきじゃなかったし、もっと違う、別の関係になった後に、唇を重ねたかったんだけど、自然と体が動いていた。
美香はゆっくりと下を向いて顔を逸らし、両腕の力を抜いた。
「…ごめん」
それ以上の言葉が浮かばないまま、部室を後にしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます