第11話 噂話

試験期間を終え、部活が再開されると同時に、美香は一人でマネージャーを熟し、毎日のように走り回っていた。


『山越辞めたんかな?』


そう思っていても、聞き出すことも、挨拶すらできていない状態。


朝一、ユウゴの席の横に立っていると、美香が登校してきたんだけど、『おはよ』のたった3文字で言葉に詰まり、声を出すことすら出来ずにいた。



挨拶すらできないまま季節が過ぎてしまい、学校帰りに公園で話しているとき、ケイスケと同じクラスの浩平が、数人を引き連れて、ゲハゲハと笑いながら公園に入ってきた。


『浩平の笑い方、下品で嫌いなんだよなぁ…』


そんな風に思いながらユウゴとケイスケの3人で話していると、浩平が切り出してきた。


「そういやさ、G組の山本杏里が、売りやってるって噂聞いた?」


いきなりそんな事を言われても、『山本杏里』がどんな奴かもわからなければ、そんな噂を聞いたこともない。


するとケイスケが、鼻で笑い飛ばした後、話し始めた。


「いやいやいや、図書室にいつもいる子だろ? 俺、委員会で一緒だけど、それは絶対にないよ。 すげーおとなしいし、声だって小さいしさぁ」


「学校ではそう言うキャラでいるんじゃね?」


「ない。 絶対にない。 つーかどこからの噂だよ?」


「F組の野村。 おっさんと腕組んでラブホ入るところ見たんだって。 確定じゃね?」


「見間違いだろ? 絶対にありえないね」


ケイスケと浩平は軽く口論となってしまい、ユウゴが2人を落ち着かせていた。


「F組の野村ってどんな奴?」


ケイスケに聞くと、ケイスケは吐き捨てるように言ってきた。


「マジムカつくやつ。 デブでナルシスト。 ちょっと髪が長くて、細いシルバーフレームの眼鏡かけてるやつ。 見ればすぐにわかると思うよ」


「嫌いなんか?」


「マジ嫌い。 あいつ委員会で一緒なんだけど、何かって言うと揚げ足取るし、嘘ばっかつくし、すげぇ自己中だし、動かないし… ホント、人をイラつかせる天才だよ」


『ケイスケがそこまで嫌うのって珍しいな』


そんな風に思いながら、ケイスケの苛立った表情を眺めていた。



その日以降、『山本杏里が売春をしている』と言う噂は大きくなり、山本はたびたび生徒指導室に行くようになっていた。


休み時間、ユウゴの教室に行こうと廊下を歩いていると、山本が指導室の方へに行こうとし、その少し後ろで嬉しそうな表情をした男が、他のクラスメイトに対してコソコソと話しているところが視界に飛び込んだ。


ケイスケの元に行き「何あいつ?」と聞いてみると、ケイスケは「あれが野村」と吐き捨てるように言っていた。


確かにケイスケの言う通り、少し髪が長くて、太めの体をしていて、細いシルバーフレームの眼鏡をかけていた。


『あいつ、生理的に受け付けないな…』


そんな風に思いながらユウゴの教室に行くと、ユウゴは数学の教科書を開き、美香に数学を教えてもらっていた。


『羨まし過ぎんだろ…』


そう思いながらユウゴの横に立つと、ユウゴが「ありがとう! これで今日指されても安心だ!!」と、偉そうに言っていた。


「ケアレスミスだけ注意してね」


美香はそう言いながらシャーペンをしまい、席を立ってしまう。


ふとユウゴのノートを見ると、小さな美香の字で数式が書かれていた。


『なんで俺、グラフィックアーツ科にしたんだろ…』


そう思いながら美香の字をボーっと眺めていた。



その日の帰り、公園に行くと同時に、先に公園にいた浩平が切り出してきた。


「ユウゴ、園田と付き合ってるってマジ?」


「は!?」


思わず誰よりも早く反応してしまうと、ユウゴは「ない。 絶対にない。 俺巨乳好きだもん」ときっぱりと否定していた。


「とか何とか言っちゃって~、しょっちゅう数学教わってるじゃん?」


「わかんねーから隣の席の奴に教わってるだけなんだけど?」


「え? そうなん? 野村がそう言ってたんだよね」


「あいつ殺って良い?」


ユウゴは真顔で聞いていたけど、真顔な方がリアリティがあって逆に怖い。


「放っておけばいいんじゃね? そのうちハブられて消えんだろ」


そう言いながら、ユウゴを宥めていた。

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