第10話 すれ違い

結局、美香とは話せないまま、夏休みを迎えてしまい、部活の時に会う程度。


と言っても、夏休み期間中の部活は週3日しかなく、活動時間も3~4時間程度。


美香は買い出しに行かされるせいで、ほとんど顔を合わせることはなかった。


夏休み中に合宿もあったんだけど、顧問が「マネージャーはいらない」と言い出したため、男ばかりで合宿する羽目に。


『つまんねぇ…』


そう思いながら、2泊3日の合宿に参加していた。


合宿中、2年の一人が「肝試ししようぜ!」と声をかけてきたけど、男だらけで肝試しをやったところで、何が楽しいのかさっぱりわからず、ユウゴと「めんどくさい」と言う理由で不参加。


『美香が居たら肝試しとか楽しかったろうなぁ… 海とかプールとか、一緒に行けたらなぁ…』


そう思いながらゴロゴロしているばかりだった。



長い夏休みを終え、久しぶりの学校が再開されても、話しかけるきっかけもなく、ただただ綺麗な髪を遠くから眺めているだけだった。


そんなある日の事。


試験前の部活停止期間中、10人近くまで増えた同級生たちと、学校終わりに公園で話していた。


話題の中心は試験に関することばかり。


特に、数学のことになると、みんな頭を抱えていたが、ユウゴだけは「俺、数学得意になったよ?」と、ドヤ顔で言ってきた。


ケイスケと2人で「マジで? 一番苦手だったのにな」と言い合っていると、ユウゴは「マジマジ! 授業中、美香に教わったから余裕!!」と、胸を張ってきた。


それを聞いたケイスケが「ああ、美香ちゃん、理数系得意って言ってたもんねぇ」と言い始め、1人取り残されている気分に襲われていた。


ケイスケは選択授業で隣の席だし、ユウゴは毎日隣の席にいる。


わからないところは気軽に聞ける距離にいるから、普通と言えば普通なんだけど、2人の話を聞いていると、言い表せないほどの虚しさに襲われていた。


「あ、そういや、一緒に勉強する約束してたんだ。 俺帰るわ」


ユウゴはそう言いながら鞄を持って立ち上がる。


「ちょっちょっちょ! え? マジで言ってんの?」


慌ててユウゴを呼び止めると、ユウゴはニヤっと笑い「マジ」とだけ言う。


「それって俺も行っちゃダメ?」


「それは聞いてみないとなぁ~ もしくは奢ってもらわないとわかんないなぁ~」


「奢る! 奢るから!!」


「マジで? 駅前のラーメン屋だよ?」


「何でもいいから!」


「約束する?」


「する!! 絶対におごる!!」


「じゃあ山越に電話してみるわ」


「…は? 山? え?」


「ラーメンな? 男の約束だろ?」


「…ハメたろ?」


「な~にが~? 早とちりした大地が悪いんでないのぉ?」


苛立ちを抑えきれず、ユウゴに歩み寄ろうとすると、ユウゴは鞄を放り投げて逃げ出した。


「待ちやがれごらぁ!!」


叫びながらユウゴを追いかけていると、ユウゴは突然立ち止まり「美香だ」と言いながら道路を指さす。


思わず足を止め、指さした方を見ると、そこにはカートを押したおばあさんが歩いていた。


ユウゴは無言で走り出し、ムカついたままユウゴを追いかけ続けていた。



結構な距離を追いかけて走り、立ち止まって呼吸を整えていると、肩で息をしながらユウゴが近づいてきた。


「ラーメン… 特盛な」


イラっとしながらユウゴの肩を殴った後、ゆっくりと公園に戻ると、ケイスケが茶封筒を渡してきた。


「さっき美香ちゃんが公園に来て預かったよ。 部費を多く取ってたから返金するって。 封筒にサインをして、顧問に返すようにってさ」


「・・・・そっか」


それだけ言うと、何とも言えない虚しさに襲われてしまい、「先に帰る」と言った後、自宅に向かっていた。

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