第9話 不意打ち
ユウゴとケイスケに八つ当たりした数日後。
ユウゴと廊下を歩いていると、美香と山越が廊下の片隅で話しているのに気が付いた。
『部活の話かな?』
そう思いながら美香の近くを通りかかった瞬間、突然ユウゴに力いっぱい押されてしまい、慌てて壁に手をついた。
が、ユウゴはすぐさま、追い打ちをかけるようにグイグイ俺の体を押し、美香を抱きしめるような格好になってしまった。
「ご…ごめん…」
突然のことに驚き、慌てて謝罪すると、美香は赤い顔をし、俯きながら「うん」と言うだけ。
振り返ると、ユウゴがニヤニヤしながらこちらを見た後、どこかに逃げようとしていた。
「ユウゴてめぇ!!」
怒鳴りながらユウゴの後を追いかけると、ユウゴは人気のない廊下で立ち止まり「どうだった?」と聞いてくる。
「何がだよ?」
「鳥肌立った?」
「あんな一瞬じゃわかんねぇっつーの!」
「真っ赤な顔してるのに?」
ユウゴの言葉にカチンと来てしまい、ユウゴの肩に拳を振り落とした。
「痛ぇ!!!」
「痛ぇじゃねぇよバカ! 怪我したらどうすんだよ!!」
「誰が?」
「美香だよ! それくらいわかれっつーの!!」
「あら、付き合ってないのに呼び捨て? この子ったらいやらしいわぁ…」
ふざけながら、主婦のような口調をしてくるユウゴにさらにムカつき、再度、肩に拳を振り落とした。
数日後の休み時間、次の授業が体育のため、更衣室に行こうとすると、山越が封筒を片手に近づいてきた。
「部費500円ね」
『なんでお前が回収してんだよ…』
そう思いながらも、黙ったまま財布を取り出し、500円玉を山越に渡そうとすると、指先にゾワゾワとした違和感を感じ、机の上に500円玉を置いた。
『治ってなかった?』
そう思いながら更衣室に行こうとすると、美香が廊下で部費の徴収をしていた。
『俺も美香が良かった…』
そう思いながらもクラスメイトと更衣室に行き、体育の授業であるサッカーをしていた。
授業を終えた後、サッカーボールを片付けていると、1つだけサッカー部のボールが混ざっていたことに気が付いた。
用具室の鍵を返すついでに、先生にその事を言うと「サッカー部に戻しておいてくれ。 サッカー部の鍵番号は1177だ」と言ってきた。
「うぃーっす」と言った後、部室棟に行き、デジタルロックキーを開けた。
何も気にせず、ボールを置いた後、すぐに教室へ戻る。
すると、山越が近づき「B組のユウゴの部費、大地から受け取れって美香が言われたらしいんだけど」と切り出してきた。
「は? 俺から?」
「うん。 今日までだから500円払って」
山越は不機嫌そうに言い、財布から千円札を取り出す。
が、受け渡しの前からゾワゾワした違和感を感じ、必死に我慢しながらお釣りを受け取った。
『ヤベ… マジ無理…』
慌ててトイレに行き、石鹸で手を洗うと、少しだけ手の違和感は治まっていた。
『あんな一瞬でもダメなんだな… あれ? 美香にぶつかった時は何ともなかったな… なんで? なんかきっかけがあるのかな? 来るってわかってたから? 不意打ちだったら大丈夫って事か?』
不思議に思いながらも、手をポケットに入れ、トイレを後にしていた。
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