第6話 出会い
高校入学式当日。
朝からユウゴとケイスケの3人で電車に揺られていた。
学校の近くに女子高があるせいか、乗り合わせた女子生徒が多く、朝から手の震えが止まらなかった。
震える手をポケットの中に入れて隠し、黙ったまま電車に揺られていると、目的の駅に到着し、誰よりも早く電車を降りていた。
「大地? 平気?」
ケイスケの心配そうな声を聞き「ああ…」としか答えられずにいた。
手の震えを隠すように、ポケットの中に手を入れたまま歩き、改札を抜けてすぐ、桜の木を見上げている、女子生徒の後ろ姿が視界に飛び込んだ。
少し茶色く見える長い髪は、光の粒を放つように艶めき、風に揺られてさらさらと舞い踊っていた。
『あの子… すげぇ綺麗な髪してる…』
手の震えだけではなく、足までもが自然と止まり、その場に立ちすくんでしまっていた。
「大地?」
ケイスケに呼ばれてハッと気が付くと、髪の綺麗なその子は、こちらに背を向けたまま、コンビニから出てきた女と共に、軽く髪を弾ませ、学校の方へ向かっていた。
「…あの子誰だろ?」
思わずケイスケに言うと、ケイスケは「入学式前にわかる訳なくね?」と笑い飛ばす。
ユウゴはそれを見ていたのか「正面、ブサイクだったりしてなぁ~。 どうする? 顔面ピアスだらけだったら」とからかうように言い、学校に向かって歩き始めた。
ユウゴを追いかけるように歩き、学校に到着しても、髪の綺麗な子の顔を見ることが出来ず、入学式の最中も、その姿を見つけることが出来ないままでいた。
同じ高校に入ったにもかかわらず、3人とも別々のクラスになっていた。
なんとなく決めた学校だし、救いと言ったら、7:3で男子の方が多いことくらい。
グラフィックアーツ科は、新設されたばかりという事と、女子高が近いという事もあり、それ目当ての男子生徒も多く、圧倒的に男子の方が多かった。
全部で8クラスもあるせいか、髪の綺麗な子の姿を見つけることが出来ないまま、短い1日が終わってしまった。
玄関でユウゴを待っていると、ユウゴからメールで【駅の近くの公園で待ってて。 交番の真ん前】と連絡が来ていることに気が付き、指定された公園に一人で向かっていると、ケイスケが駆け寄り、2人で公園に向かっていた。
公園に入り、ジュースを飲みながらユウゴを待っていると、ユウゴがのんびりすぎるくらいのんびりと歩き、公園の中に入ってくるなり、いきなり切り出した。
「今朝、髪の長い女の子いたじゃん? 桜見てた子」
「ああ。 すげぇ髪の綺麗な子だろ?」
「隣の席だった」
「マジで!?」
「うん。 握手した。 柔らかかったよ? 触る?」
ユウゴはそう言いながら右手を差し出してくる。
触ろうかどうしようか迷っていると、ケイスケがいきなり噴き出し「それってユウゴの手を触るだけじゃん。 全然意味なくね?」と笑いながら言ってきた。
危うくユウゴの手を握りそうになったことに、少し苛立ち「腹減ったから帰ろうぜ」と言い、3人で公園を出ると、髪の綺麗な子が駅に向かっていた。
「美香ちゃ~ん! また明日ねぇ~!」
ユウゴは突然大声で言いながら、大きく手を振ると、美香と呼ばれた髪の綺麗な子はこちらを向き、軽く会釈をしてきた後、女友達と一緒に改札をくぐってしまった。
「ユウゴ、あの子のフルネームなんて言うん?」
「ん? 飯奢ってくれたら教えてやる」
ユウゴは平然と言っていたが、ケイスケはクスクス笑い「明日になればわかるんじゃね? 焦って奢る必要もないっしょ」と言い、改札の方へ向かっていた。
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