第2話 違和感
学校に着き、上履きに履き替えていると、上履きの中に小さな紙が入っていることに気が付いた。
【ずっと気になってました。 これを読んだら連絡ください。 ×××-×××-×××× 〇〇〇@××.co.jp】
ただただ紙を見ているだけなのに、指先からゾワゾワとした違和感が走り始めた。
『まただ…』
そう思っていると、ユウゴが横から紙を覗き込む。
「なにそれ? ラブレター?」
「さぁな」
「連絡してみれば?」
「いらない。 やるよ」
そう言いながら紙をユウゴに押し付け、教室に向かっていた。
母親の葬儀以降、女性に対して嫌悪感を抱いてしまい、その距離が近ければ近い程、ゾワゾワとした違和感や、鳥肌が立ってしまう。
唯一、鳥肌が立たないのは上原さんただ一人。
違和感の残る手を隠すようにポケットに入れ、教室の中に入っていた。
教室に入ると同時に、クラスメイトの女たちが「義理チョコ」と言いながら、小さなチョコレートを渡してくる。
ポケットから手を出そうとしただけで、指先にゾワゾワとした違和感が強くなってしまい、手を出すことが出来なかった。
それを見ていたユウゴが、「さんきゅーさんきゅー」と言いながら、隣から手を伸ばしすべてのチョコを受け取り、ポケットの中にしまい込む。
クラスメイトの女たちは「ホント、食い意地張ってるよねぇ」と笑いながら、自分の席についていた。
『助かった…』
そう思いながら自分の席についても、指先の違和感は消えようとしない。
荷物を置いた後、すぐにトイレに行き、冷たい水で手を洗うと、違和感は少しだけ和らいでいた。
中2の男子なんだし、正直言うと、彼女が欲しい。
けど、こんな状況で彼女なんて考えられないし、作ろうと思っても、現実的に不可能だ。
『参るよなぁ… この手…』
そう思いながらトイレを後にし、ゆっくりと教室の中へ向かっていた。
1日の授業を終え、放課後が来ると同時に、ユウゴが切り出してきた。
「今日部活ないし、うちでチョコ食おうぜ」
ユウゴの手を見ると、大きな紙袋に入った大量のチョコを持っていた。
大きな紙袋が気になりつつも、自販機で飲み物を買った後、ユウゴとケイスケの3人でユウゴの家に行くと、ユウゴの部屋では、兄貴が雑誌のグラビア写真を傾けながら、必死にスカートの中を覗こうとしていた。
『アホだ…』
そう思いながら適当な場所に座り、ユウゴに切り出す。
「お前って無駄にモテるよな?」
「あげる相手が居なくなったやつのチョコ、もらっただけだよ?」
「どういうこと?」
「本命に断られた奴とか、すれ違いで彼女出来ちゃって渡せなかったヤツとか、余った義理チョコとか?」
ユウゴはそう言いながらパッケージを開け、チョコを口に放り込み、ケイスケとユウゴの兄貴も同じようにチョコを食べ始めていた。
一番小さいチョコに手を伸ばし、それを取ろうとすると、指先からゾワゾワとした違和感が走り、チョコを取ることが出来なかった。
「食わないの?」
ケイスケがチョコを頬張りながら聞いてくる。
「…食えないんだよ」
「は? なんで? この前、チョコパン食ってたよな?」
ユウゴに聞かれ、何も言えないままでいたが、話さないといけないような空気に襲われ、生まれて初めて、母親の葬儀で起きたことを、3人に話し始めた。
ユウゴの兄貴は「嘘だろ?」と言いながらチョコを頬張ると、ユウゴが隣の部屋からあゆみを連れてきた。
「腕まくってこいつに触ってみ?」
大きくため息をつきながら腕をまくり、震える手であゆみの腕に触ろうとした瞬間、パッと見でわかるほどの鳥肌が一瞬にして立ち、触れることすら出来なかった。
「マジで? それ、重症じゃね?」
ユウゴの兄貴は驚いたように言い、ため息をつきながら袖を元に戻した。
「大地って潔癖だったんだな…」
ユウゴはそう言うと、あゆみにチョコを渡した後、部屋に帰していた。
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