第2話

 コンクリートと金属類ばかり、辺りに生命反応、生物反応は見られず、無機物の残骸ばかりが転がっている。

 階段を下り、コンクリートのひんやりとした感覚を足の裏に感じながら見渡せば建物の周り以外は全て砂。砂は風に吹かれて舞踊り思わず其れは瞳を細く顔をしかめた。

「茶色と灰色。『生』の感じられない場所。オレはどうすればいい?」

 上空から見たよりも酷い地表の様子と、どんなに探っても動く物の気配が感じられず、其れは階段に腰をおろしぼんやりと目の前でつむじをまいて消えていく砂を眺める。

 何をすればいいのか、何処に行けばいいのか分からない其れはじっとその場を動くことなく吹き抜けていく風と形の変わる砂を眺めながら自分の体を確かめていた。

 しなやかに曲がる間接に、白く肌理の細かい肌。

 一見「人」という物に似ているようで、首元にある数個のコネクタが自分は人ではないと言っている。

「オレは、人の形をした何か?」

 自分の存在の意味をさぐる為、もう一度あの薄暗い部屋に行ってみようとしたその時、突然、頭の中に今までの応える己とは違う何かの声が響いた。

「誰? オレじゃない」

「お前は目覚めた。ゆえに我の声が聞こえる。さぁ、導いてやろう」

 声には不思議な拘束力があり、強制的に、自分の意識とは関係なく手足の関節がゆっくりと動き出そうとした。

 自分を操ることを覚え始めた其れは、自分を自分で操れないという事に恐怖心を抱く。

「嫌だ! お前、誰だ!」

 恐怖心は叫びとなって、其れは瞳を閉じ言葉に反発するように自分の体に力を入れた。その時、斜め後ろ、階段の横の空間で何かが落とされるような大きな音がし、其れはゆっくりと振り返りながら瞳を開ける。

 瞳に映りこんだのは自身と同じ、手と足がある「人」だった。

 瞳にその人を映した瞬間、響き渡っていた拘束力を持つ声は消え、其れはほっと体の力を抜き、階段を下りて目の前に現れた「人」と対峙する。

「お前、誰だ?」

 首をかしげながら其れが聞けば、「人」は顔を赤くし、後ずさって慌てた。

「お前こそなんだよ! 女のくせに裸でウロウロしてんじゃねぇよ!」

「裸、うん、確かに裸だ。でも、あそこには何もなかった。これでは駄目なのか?」

「はぁ? 駄目に決まってんだろ」

 目前に現れた裸体の少女に、慌てた「人」は首をかしげて自分の体を見つめる少女の其れに向かって自分の着ていた上着を脱いで差し出す。

 それを受け取った少女は暫くいろんな方向から眺め、人に突き返した。

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