ココに在ること。

御手洗孝

第1話

 時は満ちた。

 終わりからの始まり。

 ドール、お前がこの世界の脅威となるか救いとなるか、私は一つの賭けをしよう。さぁ、目覚めなさいドール。

「PROTOTYPE417、起動します……」


 頭の中で何かがせわしなく動き喋る。

 暫く続いた慌しさが収まってオレはゆっくりと瞼を開いた。

 重力は背中に感じ、自分が仰向けになっているのだと分かる。目の前で何かが開き耳元で、

「おはようございます。PROTOTYPE417」

 という機械の声が聞こえオレは起き上がった。

 金属とオイルの匂いが充満するその場所に一歩踏み出し、明るさを感じる左の方へと歩き出す。

 途中、生命反応がまるで無い自分とよく似た形のものが机に突っ伏していたがオレの興味は壁の隙間から入ってくる明るさにあって、横目で見つめながら通り過ぎた。

 白色に近い光の筋に手を這わせれば壁が動き光の筋は大きくなる。それが面白くて壁を動かしていると光は体中を照らして、オレはまぶしい光の中で突っ立っていた。


 廃墟のような崩れかけた建物の上層部、外に面した扉の前で裸のそれは大きく手を広げ、体いっぱいに光を浴びている。

 その背後にあるのは荒れ果てた部屋。

 ガラスの無くなった窓は外からシャッターが閉められ、既にその原型をとどめていない書物や紙屑、塵が散乱。

 棚は崩れ、一体ここで何をやっていたのか何があったのかすら分からないほど。

 人の一部と思われるような腕や足が散乱する異様な光景が、「普通」ではないということをさらに示している。

 体中に日光を浴びていた其れは振り返り、自分が出てきた部屋の中を見た。

 散乱する「人の部品」を見ながらそれが己の体と変わらぬ部品や素材で作られていることを確認して呟く。

「オレと同じ、オレは、ここで作られた、のか?」

 じっとりと見つめる其れの瞳の中ではせわしなくさまざまな文字、光が点滅し其れの質問にすばやく答えた。

「オレは作られた。どうして? 誰に?」

 何気なく言った其れの質問に瞳には「回答不能」と表示される。

「答え、無い。オレはどうすればいい」

 じっと地面を見つめて呟いた其れの瞳には金網の下に広がる地表が見えていた。

「さらに下ある。何か動いた……」

 地表近くで揺れ動く何かに興味を持った其れはあたりを見渡し、階段を見つけてゆっくりと軋みを上げる金属の上を歩いて地表へと向かう。

 ぺたりぺたりという足音をさせながら下りて行けば、階段はぎしぎしと軋みを上げた。

 鉄で出来、錆びついた階段は今にも崩れそうに見えたが、傷んで居ると思われる場所には補強や補修がされており、その個所を横目に其れは考え込む。

「誰にも会わない、何にも会わない。なのに、気配がする。どういう事?」

 先ほどから其れが抱える疑問に瞳は「回答不能」の文字を映し出すだけ。

 この建物も、そして崩れてきている辺りの建物も、数十年、中には数百年も経っている様に見える。

 建物に瞳を向けてみれば命令しなくとも勝手にその成分などを分析解析して映し出した。


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