77日目 夜

やっと筆を執ることが出来た……書くことが多くある。ありすぎる。気付けば前回の日記から一ヶ月以上も経っているじゃないか。


 まずは、雪森のことからだろうか。雪森の攻略中は、よく強い吹雪に出くわして、疲労が溜まったのをよく覚えている。


 この頃には、アタシ達のパーティの強さはかなり極まったものになっていた。私以外のメンバーはほとんどが範囲攻撃の手段を持っていたし、広い領域を探索するために斥候としての技術を備えている者も多かった(アタシもそうだ)ために、魔域の主であろうが10秒とかからず倒していた。


 雪森の主は不意打ちを仕掛けてこようとしてきたが、事前にその情報を聞いていたアタシ達の敵ではなかった。全員が、強さへの手応えを感じていたと思う。


 その後オクスシルダに到着し、魔神への反攻作戦の前に、凍原の攻略に乗り出した。凍原に出てから数日後、野営地で対コロッサス兵器の入手を依頼され、無事に完了。野営地に戻る前にコロッサスに出会うことがなかったのは幸運だったと言えるだろう。


 野営地でコロッサスジャマーを使用してのコロッサスの破壊を依頼された時、シオンという傭兵が同行を申し出てきた。性別のよくわからないエルフだったが、その実力は確かで、冴え渡る剣技と妖精魔法への熟達は、パーティメンバーのルーに匹敵するものがあった。


 コロッサスとの戦いは、存外あっけないものだった。コロッサスジャマーの威力は絶大で、動きの鈍った巨大な魔動機に魔法と、アタシの拳とルーのメイス、ボルツの鎌が叩き込まれ、最後に小さな爆発を起こして、それで終わりだった。モッスの賦術、フレイムフィールドとヴォーパルウェポン、そして彼のアイシクルウェポンの魔法の組み合わせは、アタシ達に過剰な程の火力をもたらしたのだった。


 そうだ、凍原の魔域では、印象に残ることがあった。魔域の主を倒し、ザイとその花嫁、ジュリエッタの結婚を見届けた後、ジュリエッタが祝福のブーケをトスしたのだ。それは宙で弧を描き、モッスの手に収まった。まあ、彼は遺産を収集しているわけだから、結局彼に渡すのはそうだったのだが、なんとなくしばらく結婚は出来なさそうな気にさせられた。別に今更したいわけでもないけど。


 そうしてアタシ達は、8の区域の魔域と主のことごとくを攻略したのだった。その後は鉄道でこれまで行った街を巡り、それぞれの街で受けたまま報告出来ていなかった依頼を報告して回り、オクスシルダへと引き返した。流石に1週間近く電車に揺られていたから、最後の方には肉体的にはともかく精神的に酷く疲れた。


 そしてそれから約10日の後、遂に魔神への反攻作戦が発動された。アタシ達は居残り部隊としてオクスシルダにいたのだが、突如オクスシルダ上空にオーロラが走り、奈落の魔域が出現した。アタシ達は為す術なくそれに飲み込まれ、そうして最後の戦いが始まった。


 魔域が再現したのは、3000年前の〈奈落の大侵食〉。そこには護衛騎士アレクサンドラとその主イリーチナがいた。


 しかし、魔神達にもういちどかつての再現をさせるわけにはいかない。アタシ達の傍らには、遺品を集め、心強い仲間になってくれた壁の守人達もいた。


 アレクサンドラの魔槍ミュラッカが吹雪き、黒狼ラピスが咆え、カティアの魔杖ポーラースタッフが輝き、ザイの魔銃イクイススカーモスが火を噴き、タウトゥミの魔拳ウコニュルッキが迸り、対魔神用決戦兵器テュータルが疾駆し、ナナリィの大聖樹の盾と、妖精魔法が閃く。


 アタシ達はイリーチナと共に魔神エゼルヴと対峙し、協力してこれを打ち破った。アタシ達の努力によって、イリーチナは足も片目も、そして命も失わず、アレクサンドラという親友を取り戻したのだった。


 そこから更に数日、激しく戦い続け、とうとう魔神達を殲滅した頃には、アタシ達はオクスシルダの英雄と呼ばれていた。少しくすぐったかったが、清々しい気持ちだった。


 こうして、アタシ達のコルガナ地方での冒険は、ひとまずの終わりを見た。


 なんでも、モッスが手伝ってほしい研究があるらしい。再び冒険に出るのは、そう遠い日ではないだろう。

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