第258話
ミミルが
〝あな、いとうつくすぃきうぉとめこならんずや。
なんでぃ、いかいのふぃとなりや。
いかにわたりこすぃやすぃらねんど、わんがむまんごとたよりのさるけすぃき。
されんど、ことのふぁのかんべはおふぉきなれんば、すこすぃたすけき。かたことなれんばふぁなすんべかるんべくならむ。
あなかすぃこすぃたすぃくくらすぃたまふぇ〟
それにしても、一度聞いただけの言葉だというのに、よく覚えているものだ。
これがミミルの「知」の加護による能力のひとつなのだろうか。
俺も「波操作」から派生して音波、電磁波などを操作しているが、特にその事に関する技能が生えているわけではない。
ミミルも同様に「知」から生まれるスキルのようなものがあっても不思議ではない。
事務所で調べたメモを取り出して、その内容を当てはめていく。
「さしすせそ」は「すぁすぃすすぇすぉ」
「はひふへほ」は「ふぁふぃふふぇふぉ」
これを適用すると……。
〝あな、いとうつくしきうぉとめこならんずや。
なんぢ、いかいのひとなりや。
いかにわたりこしやしらねんど、わんがむまんごとたよりのさるけしき。
されんど、ことのはのかんべはおほきなれんば、すこしたすけき。かたことなれんばはなすんべかるんべくならむ。
あなかしこしたしくくらしたまへ〟
「だいぶ、古文らしくなってきたな……」
「古文、古い言葉?」
「そうだ。千年以上前に記された文章に似た感じになってきてるってことだよ」
「おー」
また新しい知識が流れ込むことで、ミミルの目がキラキラと輝き始める。
まだ平仮名を書き取る練習を始めたばかりだから気が早いとは思うが、古文や漢文なども学びたいと言い出すかも知れないな。
そうなると俺もお手上げだが……。
「しょーへい、これで完成?」
「いや、まだ違和感があるんだ……」
メモ紙に記したルール適用後の文字を何度も眺める。言葉なのだから一定のルールが確立されているはず。つまり、さ行、は行以外にもなにかルールがあるはずだ。
「――あ」
三回ほど読み返して見つけた。全ての濁音の前に「ん」が入っている。
ミミルが口述していたときも気になっていたが、「ん」の発音は少し控えめ……小さな声で挟むように発音していた。
〝あな、いとうつくしきうぉとめこならずや。
なぢ、いかいのひとなりや。
いかにわたりこしやしらねど、わがむまごとたよりのさるけしき。
されど、ことのはのかべはおほきなれば、すこしたすけき。かたことなればはなすべかるべくならむ。
あなかしこしたしくくらしたまへ〟
とりあえず、「ん」を抜きにして書いてみると、更に古文らしくなったように思う。
平仮名ばかりでわかり難いが、漢字に置き換えたりしていけば、現代語にすることができる。
〝あな、いと美しき乙女子ならずや。
汝、異界の人なりや。
如何に渡り越しや知らねど、我がむまごと便りのある景色。
だが、言葉の壁は大きなれば、少し助けき。片言なれば話すべかるべくならむ
あなかしこ親しく暮らしたまへ〟
とりあえず漢字混じりの文章にしてみると、少し怪しい部分がでてきたが、なんとなくだがわかることがある。
「――読める?」
「なんとなくだが、意味はわかるぞ」
「しょーへい、意味教える」
「おや、とても美しい乙女ではないか。お前は異界の人なのか。どうやってこちらにやって来たのかは知らんが……ここが少し怪しいな」
学んだのは二十年ほど前なので、その意味を忘れてしまっている。
「続きはわかる。言葉の壁は大きいだろうから、少し助けた。片言だったら話す……〝べかるべくならむ〟はよくわからん。最後は、仲良く暮らしなさい……だな」
「むー」
「でも、神社で聞いた声でミミルが日本語を覚えたというのは間違いなさそうだ」
「おー」
片言なら話す……という言葉のとおり、ミミルが拙い日本語を操ろうとしているのがよくわかる。
「残りは調べればわかりそうだ」
「おお、いまから調べる?」
ミミルの問いに、首肯を以て返事する。
事務所のパソコンは電源を入れたままになっている。スマホで調べるよりも、パソコンの方がウィンドウをたくさん開けるから探すのも楽だ。部屋を移動して調べることにしよう。
「じゃあ、あっちの部屋に行くぞ」
「……ん、行く」
俺がソファから立ち上がると、ミミルもドリル帳をテーブルの上に置いて立ち上がり後を付いてくる。
事務所のパソコンの前に椅子をもう一つ持ってきてそこにミミルを座らせ、早速検索を開始する。
ネット上の辞書サービスにアクセスして次々とキーワード検索をしていく。「むまご」とは孫や子孫のこと、「便り」は恐らく縁故などを指す言葉、「景色」とは様子のことだ。そして、「べかるべくならむ」は「できるようになるだろう」だ。
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