第195話
魔物がいる領域へと踏み出すと、ミミルが暴れまわった。
まるで、何かにとり憑かれたかのように目に入る魔物を次々に倒していく。
〈――トールデン〉
ミミルが手を突き出し、魔法名を呟くと、三十ほどの電場が魔物の頭上に瞬く間に展開される。
頭上の電場から青白い光を放ちながら電子で放出され、それを受け止めるように地面から魔物を通して電子の柱が次々と伸びた瞬間、視界は真っ白に染まる。
その眩しさに俺は思わず目を手で覆い、瞼を閉じる。
〈――ヴィルヴィ〉
急に強い風が吹き、身体を持っていかれそうになる。
目を開き、覆っていた手を下ろすと、直径十メートルはありそうな巨大な竜巻――いや、空に雲がないので
魔力の刃も仕込まれているようで、撃ち漏らした魔物を切り刻みながら空高く巻き上げていく。その高さは十五階建てのビルほどあるだろうか……。
「――す、すごい」
巨石を頭上から落としたかと思うと、雨のように氷の矢を降らせ、無数の雷を落として竜巻のような風を巻き起こす……まるで嵐がやってきたかのようだ。
こうしてミミルが放った十発ほどの魔法で、半径百メートル程度の範囲にいた魔物は全て霧散して消えた。琥珀色をした土の魔石が乱雑に散らばっている。
〈あ、すまん……しょーへいの魔法強化を忘れていたな〉
ミミルの殲滅力に声を上げて驚いたせいか、俺の目線より三十センチ以上低いところからミミルが俺を見上げる。
どこか平坦で、無感情――そんな印象を受ける表情と話し方だ。
何かミミルの気に障るような、怒りを買うようなことを言ってしまったのかと心配になってくる。
〈まだ魔物はたくさんいるからそれはいいが、本当に大丈夫か?〉
〈心配ないと言っているだろう!〉
〈だ、だといいんだが……〉
本気のミミルが放つ魔法の威力を見た直後だ。俺にはとてもミミルの言葉に逆らおうなどとは思えない。自殺行為ではないかと思えてしまう。
〈さあ、しょーへいも暴れてくるといい〉
〈その前に魔石を拾わないとな〉
魔法にしろ、スキルにしろ、俺が身につけているものは射程距離が精々二十メートルほどしか無いので、ミミルに百メートル先まで魔物を殲滅されてしまってはすることなどドロップ品を拾うくらいしかない。だが、ミミルが特大の威力がある魔法を使ったせいで、魔石くらいしか見当たらない。
腰を曲げ、モネの落ち穂拾いのように地面に散らばった魔石を拾って歩く。
〈何をしている。空間魔法の練習をするいい機会ではないか〉
〈あ、そうか〉
空間魔法なら落ちている魔石まで腰を曲げて手を伸ばす必要がない。
ミミルに教わったとおり、手の先の空間を掻き乱すようなイメージを作り、更に手を伸ばす。空間を超えて自分の手が伸びるというより、手の先に向こうがやってくる感じだ。
〈それで
ミミルがニヤリとした笑顔をみせてこちらを見ている。
昨日は空間魔法で俺の肩を突いて遊んでいたくせに、どの口が言ってるんだって思う。
だが、先ほどまで能面のようになっていたミミルに笑顔が戻って何よりだ。
〈ああ、誰かさんみたいに子どもみたいな遊びはしないさ〉
〈むっ!〉
ミミルは小さな頬を膨らませてこちらへと抗議の視線を向ける。
中身は空気なので食事のときほど大きくはなく、可愛らしい。
これだけ元気がでてきたのなら問題ないだろう。
すると突然、ガクリと左膝が崩れ、俺はバランスを崩した。
転ぶほどではないので体制を立て直すが、これは間違いなく「膝カックン」というやつだ。
こういう
ふと目を向けると、ミミルは俺に背中を向けて遠くを見て平然としているように見える――が、肩が小刻みに震えている。
俺とは違い、対象の正面に立たなくても空間魔法を扱うことができるミミルならこれくらいの
一瞬仕返しも考えたが、脳裏を
俺には何か途轍もないものをミミルが抱え込んでいるような気がしてならなかった。
〈ど、どうした?〉
何も反応を返さない俺のことが逆に心配になったのか、ミミルが俺を見上げて声を掛けてきた。
普段と変わらないその様子に、少し安堵しながら返事をする。
〈何でもないよ〉
〈そ、そうか、ならいい……んだ〉
俺がミミルの
空間魔法を使ってドロップしている琥珀色の魔石を集めながら、進んでいくとミミルの攻撃範囲の外にいた魔物たちが目に入る。
五〇メートルほど先にいるのは、先程も見かけた体毛と鼻が長い――象に似た魔物だ。
「体毛が厄介だな……」
思わず声が漏れる。
漸く生活魔法レベルから初級攻撃魔法を覚えた程度では、あの体毛で守られた身体を傷つけるのは難しそうだ。
魔法の練習するためには、あの厄介な体毛をどうすればいいだろう……。
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