第182話
食器や調理器具などをミミルの空間収納へと仕舞ってもらい、ここで魔法の練習を始める。
魔力を使うという意味では身体強化や魔力強化なども魔法の一部かもしれないが、今回はアニメやゲームの世界の魔法使いが扱うような魔法――火、水、氷、風、土などを扱うものが対象だ。
但し、ここは草原なので火は後回し……第二層の攻略が終われば第二層入口に戻って祭壇の上で教わることになった。
「先ず、いまできることを確認する。水を出してみろ」
「問題ない、ほいっと……」
普段から折りたたみ式のバケツに水を貯めるのに使っているので慣れたものだ。
右手の上に直径三十センチほどの水の球体が現れる。
〈よし、それを凍らせてみろ〉
〈んあ?〉
〈凍らせてみろ〉
〈それは……まだやったことがない〉
俺がいままでに教わった魔法は、水を出す魔法、石を出す魔法だ。
水は液体だからスムーズに出すことができるが、石は難しくて苦労していた。
〈しょーへい……私は魔法とは何だと教えた?〉
〈魔法とは想像し、創造するもの〉
〈では、想像してみろ〉
〈むっ……〉
ミミルの言葉に反論する言葉が出ない。
エアエッジやエアブレードのようにミミルの使う魔法とは違うオリジナルの魔法のようなものを作り出しているのだから、想像さえすれば魔法を作り出すことも理解しているというのにそれを忘れていたんだ。
水を出しながら凍らせるか、水を出して凍らせるかも問題だ。
最初は水球を手のひらに生み出し、そこから凍結させてみる。しかし、この方法だと外から凍っていくので中がどこまで凍ったかまではわからない。
だが、一番の問題はそこじゃない。
〈――割れたな〉
ミミルが予想していたかのように呟いた。
氷系の魔法を覚えるために誰もが通る道……ということなのだろうか。
〈ああ、凍るとタイセキが増えるからな。仕方がないか……〉
〈タイセキ……?〉
〈なんだ、知らないのか?〉
水だけではなく、すべての物質は温度と共にその体積を変化させる。科学が発展している地球なら小学校四年生で学ぶことだ。
一方、エルムヘイムでは魔法が発展しているので科学的なことについては殆ど発展していない。
〈タイセキとは何だ?〉
〈タイセキとは大きさ――というか、どれだけの
エルムヘイム共通言語で「体積」という言葉はないが、〈
〈ふむ、凍ると
〈水の場合、凍っても、熱を加えても
だが、ミミルは不思議そうに首を傾げる。
〈凍っても、熱くなっても
〈それは……〉
どんどんミミルへの説明が複雑になっていくな。
水の体積が一番小さくなる温度を説明するには、温度の単位を教える必要がある。
図鑑はモノを絵に、写真に納めて説明するものだから便宜上必要になる場合以外はモノの単位まで説明してはくれない。
〈それを説明するには、チキュウで使われている温度の単位を説明しないといけない。タイセキも理解するには長さの単位が必要になる〉
〈魔法の訓練が終わってからか?〉
〈いや、地上に戻ってからだ〉
ミミルも俺の言いたいことを理解してくれたようで、黙って頷いた。
ネットで調べながら教えれば大丈夫だとは思うが、単位って互いに関係しているから難しいんだよな。
〈それでさっき氷が割れた理由だが、中で後から凍った水の
〈ふむ、とにかく詳しいことは後ほど――ということだな〉
〈うん、そうだな〉
〈では続きだ……さっきの水球と同じ大きさの氷を手の上に出してみろ〉
〈直接氷を出す感じだな。よし、やってみよう〉
ミミルの指示に従い、先ほどの水球サイズの氷が出てくるようなイメージで魔力を手のひらから放出する。
だが、数秒掛けて出来上がったのは水球だ……。
〈ふむ、予想通りだな……〉
〈ミミルは何が原因だと思う?〉
魔法の練習を始めたばかりの頃、手のひらに石が出るイメージを作って魔力を流した時のことを思い出しながらミミルに訊ねる。
あのときは俺の魔力の流れに斑があるせいで、サイズが不規則な石が出てきた。だが、今回は氷にさえなっていない。
〈少なくとも私は水を凍らせることもできるし、氷を直接出すこともできる〉
ミミルは左手に直径二十センチほど――ハンドボール競技に使うくらいの氷の塊を作り出して見せると、続けて右手に水球を作って中から凍らせて同じくらいの氷の塊を作った。
いきなり氷を出したり、中心から凍らせたりできるミミルはやはりすごいと思う。
だが、それはミミルに先入観がないからだ。
つまり――
〈ああ、俺は水を凍らせないと氷は作れないと思っているから失敗したのか……〉
氷は水が凍ったものという定義が俺の中で邪魔をしているんだ。
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※基本、エルムヘイム共通言語の文字はルーン文字という設定です。
その会話を日本語で読めるように〈 〉で表現しているので「
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