第155話
ミミルが使った魔法は、恐らく風で防壁をつくるものなのだろう。
一瞬の出来事で
〈あ、ありがとう〉
〈身体強化しても刺突系の攻撃は抜けてくることがあるから気をつけろ〉
〈わかったよ〉
とは言ったものの、いまミミルがやってみせたような風の防壁のようなものを俺は使えない。
葉や茎を傷つけず、収穫する方法か……。
セレーリは茎が密集しているところと、外側に広がる茎と葉の部分があって、外側の茎は回転できるようだ。
根が生えていて移動ができないのは確かだが、外側の茎や葉をスピンさせて外敵から身を守る……という能力があるのだろう。
ならば……。
最も近いところにいるセレーリに向け、変則的な経路をイメージしてエアブレードを投げる。
腰ほどの高さから投げ出した角度は目標のセレーリに向けて右に約六十度。
魔力の刃はほぼ地面に対して垂直に立った状態で回転しながら大きく弧を描き、一気に水平へと刃の向きを変えて地面スレスレへと降りてセレーリの真横からその根元へと突き刺さる。
断末魔の叫びとはいかないが、明らかに繊維質のものに刃を入れた音が派手に聞こえると、セレーリの束になった茎の部分がごろりと地面に転がる。
目のようなものがついた外側の茎と葉は霧散して消えてしまったようだ。
あまりに呆気ない勝利に気が抜けてしまうが、直後に小さな
どうやら、セレーリを刈り取ったエアブレードがそのままの勢いでキュメンの茎まで傷つけてしまったようだ。
米粒ほどの小さな石のような礫が俺の服にパラパラと当たって落ちていく。
〈ミミル、キュメンって弱くないか?〉
物体の与えるダメージは重量と速度に比例する。
米粒程度の大きさのものがある程度の速度で飛んできて当たったとしても、受けるダメージは知れている。
〈正確には石礫ではなく、種子なんだが……。目や口に入ると厄介だとは思わんか?〉
〈ああ、確かに……〉
眼球に当たればそれなりのダメージは受けるだろうな。
それに、種子というのであれば何かの成分が含まれているはずだ。
地面に落ちた石礫を拾い上げて様子を見る。
暗紫色の煙になって霧散していく姿を見て受けた印象は、米粒よりも細い種だということ。そして、霧散する際に漂う香りには馴染み深い香りが含まれていた。
「――クミン、かね?」
〈ん?〉
〈いや、〝クミン〟という香辛料に似ているなってね……思ったんだが、霧散してしまった〉
クミンもセリ科の植物で、水辺を好む草だ。
このあたりに生えていても不思議ではないが、川そのものは二十メートルほど低い場所を流れているので、違和感を感じる。
もう少し湿っているところが好みなんだとは思うのだが……。
〈上手く、種の部分を刈り取れば手元に残ることもあるぞ〉
〈わかった。次は意識して刈り取るよ〉
そう答えると、最初に接触したセレーリが収穫されたことに怒っているのか、周囲のセレーリたちが葉を揺らしてこちらを威嚇している。
カレーを作るには欠かせないスパイスだし、エスニック料理でもよく使う。
フェンネルに似ているのでサルシッチャやソーセージなんかにも使うことができるから、豚肉に似た食材を落とす魔物がいるときに重宝しそうだ。
そうなると、しっかりキュメンも収穫しないとな。
草には音波探知は通じない。
周辺に生い茂っている草まで探知していたら、先ほどまでいたキュリクスやブルンヘスタがいたエリアだと何も認識できないからだ。
だが、ここで植物系の魔物が出てきたことで、魔物を探知する方法は……ある。
目に魔力の膜を作るように意識して前方を注視すると、セレーリたちの間に枝先にクミンに似た実が
あの房になった実の根元についているのが目なのかね?
一つの茎からいくつも枝茎が伸びて、分岐する場所に実が丸く房状になって実っている。枝茎が分岐した先には葉がもっさりと生えているのだが、これがパセリのように丸く頭と腕のようになっているのが可愛らしい。
〈あの実の付け根を狙うのか……〉
〈分岐して伸びた葉の塊が風刃を叩き落としてくるぞ〉
それはまた面倒なことだ。
腕代わりの枝が分岐した根元を狙うわけだから、キュメンとしても防御しやすい場所ということだ。
セレーリと同じように、キュメンが認識していないところから攻撃できるのが望ましい。
チャクラムのように丸い形をした風刃なら、地球にあるフリスビーの動きと同じようなこともできるはずだ。
パセリのような葉が生えた腕のような枝を揺らし威嚇しているキュメンに狙いを定めると、イメージに合わせて一歩踏み出す。
「――エアブレード!」
チャクラムに似た円形の風刃を空高く投げ飛ばす。
左上方へと高く舞い上がった風刃は大きく弧を描いてキュメンの背後へ回り込んで突き刺さり、
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