第153話
ミミルは我慢できないといった
光沢のある
『うまいっ……』
〈そりゃよかった〉
なかなか登り串など打つ機会がないし、薪で炙るように焼くなどという機会もないので少し心配だったが、問題なく焼き上がったようでよかった。
軽く安堵の息を
皮が香ばしく焼き上がっていて、
「いやいや、これは
そもそもこの魚の魚体は
そのことを自分に言い聞かせるように呟くと、
ミミルがそのことに反応してこちらを見上げるが、気にしない。
「いただきます――」
俺の一言に、完璧に「いただきます」を言うのを忘れていたミミルがこちらを見て固まるが、覚えたての言葉だから忘れるのは仕方がない。
口元まで持ってきてから、生命への感謝を述べつつ
先ず香ばしく焼けた皮の香りと裂ける音が口いっぱいに広がり、身に食い込んだ前歯がふわりと柔らかい身へと食い込んでいく。
途端に皮目と身肉から濃厚な旨味と脂の甘み、塩味が溢れ出してきて、一気に舌裏から唾液が溢れ出す。
「うまいっ!」
またひと口齧りつくと、むしゃむしゃと咀嚼を繰り返して飲み込む。
ミミルも同じように小さな口で齧りついては、小刻みに顎を動かし続けている。
そういえば、確認していないことがあったな……。
〈ミミル、この魔物はなんて名前なんだ?〉
〈エレッツ。このあたりで捕れるのは全部エレッツだ〉
エルムヘイム共通言語の加護で、〝エレッツ〟は日本語にすると
〈それぞれ味わいは違うだろうに……〉
〈それはそうだが、昔からそう呼んでいるのだから仕方ないだろう〉
〈まぁ、そうだな……〉
欧米だと
そう考えると納得はできるんだが、三種の魔物を全部エレッツと呼ぶとなると区別がつかないのは困るな。
〈ニホンではこの魔物に似た魚を〝
〈ならば、そう呼べばいい。私もそれでニホンの言葉を覚えられる〉
〈いや、顔は〝鯉〟という魚なんだがな……〉
清流に棲むからこそ得られる、清冽で甘さを含んだ爽やかな香り……泥臭い鯉とは全然違う。
〈そうだな、じゃあ髭が生えていることだし、
〈わかった。で、もう一匹釣れていたのではないか?〉
〈夜にでも食べようかと思っている〉
ニジマスに似た綺麗な魚体を持つ魔物なんだが、顔は
〈名前は〝ニジマス〟と〝ナマズ〟に似ているから、
〈ニジナマスだな、覚えたぞ〉
語呂合わせのようになってしまったが、これではミミルが
でも、地上では
そういえば、
つけるとすればウナマメ……ヤマメギってところだろうか。
まぁ、便宜上つけるだけの名前なので、そこまで真剣に考える必要もないかも知れない。
〈エルムヘイムではこういう魚系の魔物はどう食べるんだ?〉
〈網を敷いて、上に乗せて焼くだけだな〉
〈味付けはするんだよな?〉
〈いや、焼くだけだな……〉
ミミルは小さな口でヒゲイワナに
〈エルム人が料理するときは塩を振っても大雑把で斑がある。
こうして食べればわかるが、しょーへいの料理は塩の分量が丁度いいし、焼き加減も絶妙だ。
エルム人の料理なら、焼きすぎて炭になった部分があるのが当たり前になっている〉
〈なんでまたそんなことに?〉
一時は人口抑制をしなければいけないほど人が増えたとミミルは言っていたが、そのときに食糧難にも見舞われていたはずだ。
もっと食べ物を大切にする文化が根づいていてもおかしくない。
〈資源をダンジョンに頼るようになると、資源が余るようになったのが原因なんだろうと私は考えている〉
〈なるほどな……〉
資源が不足していたときの名残で、資源が余っていると「雑に扱う」ことで贅沢している気持ちになるからな。
それにしても、塩さえも振らずに網の上で焦げるまで焼くとはなんとも寂しい世界だな。
〈残った魚の料理、楽しみにしてるぞ〉
〈おう、任せとけ〉
夜に出すニジナマスの料理は少し凝ったものを作ってやるとしよう。
こんな会話をしつつ、俺とミミルはゆったりと時間をかけてヒゲイワナの塩焼きを食べた。
結構、まるまると太った魚体だったので一匹食べ終えると腹は十分膨れた。
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