第150話
その後、身体強化した状態で反復横跳びにも挑戦した。
一分間に百三十五回という数値は地球の世界記録の倍以上の回数を
それよりも驚いたことがある。
〈これだけ動いても息一つ上がらないのは驚きだな〉
〈魔力を循環させ身体を動かしているから、呼吸や心臓への負担が少ない〉
ということは……
〈だったら、水中でも長時間活動できるということか?〉
〈そうだ。体内の魔力を消費して水中で活動することも可能だ。但し、地上と同じくらいに動くことはできないぞ〉
水の抵抗は変わらないので、自由ではないということだろう。
だが、水中での活動が可能ということは、理論上は宇宙空間でも可能ということだ。ロケットや宇宙船もなしに宇宙空間に出ることはできないから、あくまでも理論上の話だけどな。
〈次に、武器への魔力強化を教える。短剣を出して握ってみろ〉
〈こうか?〉
腰に留めた鞘から右手でミミルから貰ったナイフを抜いてみせる。
焚き火の明かりで
キュリクスやブルンへスタのような大型の魔物にも使っているが、特に
〈それでこの木を切ってみろ〉
ミミルが空間収納から取り出したのは、高さ三メートル、直径五十センチはある大きな丸太だ。
それを岩盤に突き立てると、土魔法らしきもので根元を埋めて固めてしまう。
それにしても、この太さの丸太を刃渡り四十センチのナイフで切る――どう考えても無理だろう。斧であっても数回は叩きつけないと切ることは
確認するようにペシペシと左手で丸太の表面を叩いてみるが、しっかりと根元を固められているのでビクリとも動かない。重さも相当あるはずだ。
〈どうした、切ってみろ〉
〈いや、この太さの木は無理だろう〉
〈やってみなければわからん。その木くらいではその短剣は折れたり
〈ほんとかよ……〉
ミミルの言葉は信じたいが、半信半疑で丸太に向かって構える。
直径五十センチ……外周で百五十センチはある大きな丸太を前にすると、大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。
二度、三度と深呼吸をして間合いを図ると、四度目の深呼吸で左足を踏み込み、右上方から左下に向けてナイフを振るう。
「ハッ!」
硬い丸太にナイフが食い込む瞬間、斧でも叩きつけたかのような音が響く。
気合を込めて力いっぱいナイフを振るったのだが、やはり丸太は硬く、十センチほど刃が食い込んだだけだ。
あと、少し右手のひらがかなり痛い。
〈やはり無理だったろう?〉
〈では次は、右手を身体強化して切ってみろ〉
〈あ、そうか。やってみよう〉
丸太に刺さったナイフを抜いて、呼吸を整えて右腕に身体強化を施す。
ナイフを持つ右手の先ではなく、魔力の流れを意識して肩から指先にまで魔力を集中させて斬りつける。
「ハッ!!」
また斧を叩きつけたような音がすると、今度はナイフが半分ほどまで食い込んだ状態で動かなくなった。
〈無理か……〉
〈そうだ、無理だな。では次に、手に持つナイフも自分の身体の一部だと思って魔力強化してみろ〉
〈自分の身体の一部……〉
食い込んで丸太に挟まったままのナイフを取り出すと、再び呼吸を整えて右手に魔力を
同時に魔力視を使って自分の魔力の流れを確認しつつ、握ったところから水が漏れるようにナイフへと魔力を伝えてみると、まるで俺の身体の一部のように魔力が流れ込んでいく。
魔力視で見ているとやがて右腕とナイフが一体化したかのように輝き始める。ミミルの言うような「魔力強化」ができたということなのだろう。
再度、突き立てられた丸太の前に立ち、呼吸を整えて丸太を一閃。
今度は何の抵抗もなくナイフが丸太の中を滑るように通り過ぎる。
「へ?」
それはまるでそこに丸太が存在しなかったかのような――空振りしたかのような感覚。
斜めに切断された丸太がズルリとズレて落ちる。
俺はあまりのことに呆然とその光景を見つめていた。
刃渡り四十センチのナイフが、直径五十センチの丸太を紙でも切るかのように切ったのだ。
切り倒した丸太を見て立ち尽くす俺の背後からミミルの声が聞こえる。
〈それを魔力強化という。特に魔力に親和性の高いベリアルムという素材を使っているからな。そのまま第二十一層まで使える武器になるだろう〉
〈す、すごいな……これは〉
ナイフに纏った魔力が振り下ろす際に魔力の刃になった――そう考えなければ辻褄が合わないな。
〈あとは一瞬で魔力を纏うことができるようになること。そして、その状態を維持して戦うことができるようになることがこれからのしょーへいの課題だ〉
ブルンへスタのような大型の魔物を相手する必要がある以上、今後はナイフを魔力強化して戦う機会が増えるだろう。
そのためにも、ミミルは自在に身体強化や魔力強化を扱えるようになれと言うんだな。
面白い――絶対に身につけてやるぞ。
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