第149話

 第一層で接敵した魔物の名前を一通りミミルに確認した。


 オカクラゲは〝ラン・マネート〟で日本語にすると「陸クラゲ」に相当する。

 スライムは〝ジェルン・スナイグル〟で「澄んだナメクジ」という意味。ただ、実際は〝ジェグル〟と略されるらしい。

 草原オオカミは〝イングルブ〟と呼ばれているが、〝イング+ウルヴ〟で、そのまんま「草原のオオカミ」という意味だった。


 確認すればスラスラと頭の中に入ってくるので、特にメモなどはしないことにして、こうして記憶力が上がったのも魔素の関係なんだろうか。


〈ミミル、魔素を取り込むと知能も強化されるものなのか?〉

〈うむ、人によって差はある。それに、強化されるのは間違いないが――計算や思考などはそれなりに訓練しないと駄目だな〉

〈ああ……頭がよくなっても、使わないとだめってことか〉

〈そのとおりだ〉


 パソコンが最新になっても同じゲームしかしていなければ、新しいパソコンの能力をすべて出し切ることは不可能――ということだな。

 ある意味、宝の持ち腐れになってしまうということか。


〈身体の中に取り込んだ魔素は魔力になって蓄積する。その魔力が普通に循環しているから、強化されるということは理解したか?〉

〈ああ、大丈夫だ〉

〈では、意識して身体のある一部に魔力を集めるとどうなる?〉

〈そこの部分の能力が向上する……でいいのか?〉


 ミミルは黙って頷く。

 なるほど、最初に水を出す魔法を試していた時、右手の先に魔力が集まった状態になっていたが、あれが強化した状態ということなんだな。


〈全身の魔力を意識して効率よく循環させれば身体能力は更に向上するのだが……まずは、脚だけで跳んでみるといい。

 だが、跳んだからといって解除するなよ。着地する際に怪我をするからな〉


 珍しくミミルが先に忠告してくれた。

 流石に言わなきゃまずいレベルで危険ってことなんだろう。


〈わかった。とにかく試してみるよ〉

〈くれぐれも――〉

〈ああ、身体強化を解くべからず……だな〉


 先ほどミミルが地面に線を引いた場所まで戻り、立ち幅跳びの準備に入る。

 左右の足を線の内側に置いて、まずは全身の魔力の流れを感じとる。

 身体のへそのあたりから流れ出す温かい何か――魔力が身体の隅々にまで流れていくと、また中心へと戻ってくるのを感じる。

 その魔力の流れを意識しつつ、両足へと魔力が集まるイメージをつくり、徐々に集中させていく。

 充分に魔力が溜まったイメージが湧き上がってきたら、両手を上下に振って一気に地面を蹴る。


「うおっ!」


 あっという間に斜め上方へと飛び出した。

 滞空時間は先ほど立ち幅跳びをしたときの倍以上。

 風を切る音が耳に聞こえる。

 暗いのでよくわからないが、相当な高さにまで跳び上がっているようだ。

 そして砂埃を上げて硬い岩の上に着地すると、勢い余って前へと回転しする。

 なんか、靴底がかなり削れてしまったような気がするのだが、魔物の攻撃よりもダメージを受けてるんじゃないだろうか。


 慌てて自分が着地した辺りに目を向けるのだが、すぐ近くからは水が轟々と流れる音が聞こえてくる。

 もう少し先まで跳んでいたら、この大きな岩の上から落ちていたかも知れないと思うとゾッとする。


〈ここまで跳んでいたぞ〉


 ミミルが火のついた薪を持って立っている。

 その向こうには、テントの前に置いた焚き火が見えているのだが、とても遠くに見える。


〈ありがとう〉

〈気にするな〉


 態々わざわざ俺が着地した場所まで走ってきてくれたミミルに礼を言うと、俺はそこから踏み切った場所までの歩数を数えながら歩く。

 二十六歩あるので、距離にすると約二十メートルといったところだろう。身体強化で約三倍の飛距離になったってことだ。

 ただ、もう少し勢いをつけたり、飛び上がる角度を変えていたら……川に落ちていたかも知れないな。


〈どうだ、三倍にはなったのではないか?〉

〈ああ、そのとおりだ。すごいな……〉

〈硬いものを短剣で斬りたいとき、突き刺したい時などは腕を強化するといい。魔力を体内に循環させているので、それを支える足腰もある程度は強化された状態になるから安心していいぞ〉

〈なるほど。理解できたよ〉


 下半身だけを魔力で強化したところで体幹や腕の強化をしていないとバランスを崩してもおかしくないのに、特にそんな様子はなかったので不思議に思っていたんだ。

 普段の生活の中でも俺の体内で魔力は循環しているが、足や腕の身体強化のために魔力を意識して循環させれば、身体全体もある程度は身体強化されるということなんだな。


〈特定の部位だけを強化するのではなく、全身を強化するつもりで普段から魔力循環の練習を続けるといいぞ〉

〈どうしてだ?〉

〈普段から装備品で保護されていない腹回りの防御力向上が見込める〉

〈ああ、わかった――毎日の日課にするよ〉


 俺の身体で最も装甲が薄い部分だからな……かなり不安だったんだよ。


 ───────────────────


 ツノウサギ :ホルカミン(ホルン・カミン)

 オカクラゲ :ラン・マネット

 スライム :ジェル・スネグラ

 ソウゲンオオカミ :イング・ヴォルク

 ソウゲンアリ :イング・マウル

 ミドリバッタ :グロン・ロウク(グローク)

 クロハネコオロギ :スヴァル・リケット(スヴァリケット)

 ヒラハコオロギ :フラット・クリケ(フラリケット)

 ナカバカマキリ :ヴァリン・マンティ(ヴァリンティ)

 オオバカマキリ :ストル・マンティ(ストルティ)

 ヌマベワーム :サン・メイテンマール(サマール)

 トゲモグラ :トルン・モール(トルモール)

 アナコネズミ :リテン・フルマス


 ブルンへスタ :ブルン・ヘスタ(茶色い馬)

 キュリクス :キュー・リクス(まっすぐな角の野牛)


 ある国の言葉を少し弄っています。

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