第148話
ミミルの動きが速いのでタイマーを一分にセットしてカウントしてみると、一分間に九十二回。
一般的な日本人の中でも早い人で一分間に六十回まではいかないはずだから、人間だと一秒に一往復というのがほぼ限界みたいな感じなのだが、ミミルはそれを軽く超えている。
そして、ミミルにスマホを持ってもらった状態で俺が反復横跳びをすると、一分間に九十六回という結果になった。ミミルのスマホ操作では少し怪しい気もするが、それでもミミルと同等の数値がでているのは間違いないだろう。
ミミルよりも俺の方が速いのは体格的な差――地面に描いた線の間隔が一メートルというのはミミルには広すぎたのかも知れない。
立ち幅跳びやこの反復横跳びの結果からみると、俺の跳躍力や敏捷性はもう人間ではないレベルにまで上がっているということになる。林檎のような果物も簡単に握りつぶしていたから力も人外なのか。
恐らく、これまで生い茂る草の中で横飛びで避けたりしてきていたが、この身体能力が救ってくれていたということなんだろう。
一メートル五〇センチの草に囲まれていたということで、感覚が狂っていたのかも知れない――試してみるか。
俺はブルンへスタが襲ってきたときと同じように横飛びをしてみる。
〈急にどうした?〉
俺が突然横飛びをしたを見たミミルが慌てて俺に訊ねる。
〈いや、ブルンヘスタを避けるときにどれくらい飛んでいたのかわからなかったからな。試してみたんだ〉
〈なるほど……〉
こうして草も生えていない場所で飛ぶとよくわかるが、やはり五メートル近く飛んでいたようだ。
敏捷性も上がっているので、飛び出すまでの時間も異常に短い。
時速五十キロとなると、一秒間に約十四メートル。二十メートルは約一.五秒で到達する速度ということになる。
そんな短い時間にブルンへスタの両前脚の間に身体を捻り込んだり、横飛びで体当たりを避けたり……俺自身、そんなことができたのが驚きではあったのだが、自分の身体能力が向上していることがわかると改めて驚嘆してしまう。
〈どうだ、身体能力の上昇を実感しただろう?〉
〈うん、身体能力が凄く上がっていることは理解したよ〉
俺は自分の開いた両手を見つめながらミミルの問に答える。
能力的にはダンジョンに入る前の三倍以上にはなっているんじゃないかな。
立ち幅跳びで七メートル飛べるのなら、走り幅跳びならどれくらい飛べるのだろう。
走り幅跳びの世界記録は僅かに九メートルに届かない……と言う程度だったはずだが、それを超えるほど飛べる可能性だってありそうだ。
〈ダンジョンで魔素を吸収すると、身体の最適化が行われると話したことがあると思うが――最適化に伴って、魔素による強化も行われる。
取り込んだ魔素は体内を駆け巡るわけだが、取り込んだ魔素量が増えればそれだけ身体は強化される〉
〈魔物を倒せば倒すほど強くなる――ということかい?〉
〈強くなるほど必要な魔素の量が増えるから、弱い魔物ばかり倒していても強くはなれん。一頭のキュリクスやブルンへスタはホルカミンを三十匹以上倒すのと同じくらいの魔素がある〉
確かにキュリクスやブルンへスタは大きいからな。
ホルカミンというのはまだ接敵したことがない魔物だからイメージが湧かないんだが……。
〈そのホルカミンには接触したことがないからわからないが、どれくらいの大きさなんだ?〉
〈何を言ってる――しょーへいが最初に倒した魔物がそれだ〉
〈――え?〉
〈――ん?〉
思わずミミルと目を合わせて、互いに首を傾げる。
逆に首を倒すと、なぜかミミルも首を逆へと倒してくるんだが……可愛いアピールというやつか?
いや、そういえば俺がエルムヘイム共通言語を話せるようになるまでは名前が訳されていた可能性があるんだったな。
〈さっき気づいたんだが、第一層の魔物はミミルの念話で名前を教わっただろう?〉
〈そうだな、しょーへいは第二層に着いてエルムヘイム共通言語を話せるようになったからな〉
〈うん、だから第一層の魔物の名前は翻訳されて俺には伝わっていたようなんだ〉
〈ああ――そういうことか。念話の魔法も万能ではないからな〉
既に踏破した第一層の魔物のことだからなのか、ミミルはその誤訳がたいした問題ではないと思っているようで、軽く聞き流そうとしているのがわかる。
ただ、俺の立場では今後もミミルと魔物の話をするうえで正しい呼び名を覚えておく方がいい。
〈とりあえず、〝ツノウサギ〟はホルカミンだな。ホルム・カミンの略したものか?〉
ミミルは首肯でそれを正しいと教えてくれる。
エルムヘイム共通言語で〝ホルム〟は「角」、〝カミン〟は「兎」を意味するので間違いないようだ。恐らくだが、〝ホルム〟を接頭語にして「角がある兎」にする際は〝ホル〟になるんだろうな。
別にこんな細かなところまで急いで確認するべきことでもないが、忘れないうちにしておきたいことでもある。この話の流れにのって他のものも確認してしまうことにしよう――。
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